第3話
零と香織のコンビが有名になってから、二週間が経過した。
二人は毎週末、Cランクダンジョンに挑み、着実に実績を積み重ねている。香織の新しい杖は予想以上の性能を発揮し、彼女の魔力は日に日に向上していた。
しかし零は、何かが足りないと感じていた。
「零、どうかした?」
休憩中、香織が尋ねる。零は遠くを見つめたまま答える。
「二人だけじゃ、限界がある」
「そう?私たち、結構うまくやってると思うけど」
「お前の防御魔法だけじゃ、Bランク以上は厳しい。それに、回復役もいない」
「確かに...でも、誰を入れる?」
零は腕を組んで考える。戦力になる人間は多い。しかし、本当に信頼できる仲間となると──。
その時、訓練場の端で一人、剣を振る少女の姿が目に入った。
桐生楓。クラスは違うが、同学年の剣士だ。真面目で実力もある。しかし、いつも一人で訓練している。
「あの子、いつも一人よね」
香織も楓に気づく。
「理由を知ってるか?」
「確か...貧乏で、良い装備が買えないって聞いたわ」
「装備?」
零は楓の剣を見る。確かに、ボロボロだ。刃こぼれしていて、柄も綻んでいる。あれでは本来の力を発揮できない。
「ちょっと見てくる」
零が立ち上がり、楓に近づく。香織は不思議そうにその後を追った。
「桐生」
零の声に、楓が振り向く。汗だくの顔に、驚きの表情。
「神代...さん?」
「その剣、見せてくれないか」
「え? あ、はい...」
楓は恥ずかしそうに剣を差し出す。零はそれを手に取り、じっくりと観察する。
刃はところどころ欠けている。柄の革は擦り切れ、重心バランスも狂っている。これでは、まともに戦えない。
「これで戦ってるのか」
「...お金がなくて、新しいのが買えないんです」
「家は?」
「母と二人暮らしで...母が病気で働けなくて...」
楓の声が小さくなる。香織は同情の目で見つめた。
「だから、学校の修理品を使わせてもらってるんです。タダなので」
「こんな状態の剣で、よく怪我しないな」
「何度も...してます」
楓の手には、古い傷跡が無数にある。ボロボロの剣で戦い続けた証だ。
零は剣を楓に返し、そして言った。
「俺のパーティーに入らないか」
楓の目が見開かれる。香織も驚いた表情だ。
「え...で、でも、私なんかが...」
「お前の実力は知ってる。剣の腕は、学年でもトップクラスだ」
「そんな...」
「ただし、条件がある」
「条件...?」
零は楓を真っ直ぐ見つめる。
「お前専用の剣を、俺が作る。その代わり、俺たちと一緒に戦ってくれ」
楓は信じられないという顔で零を見る。専用の剣を、作ってくれる? この伝説の武器職人が?
「本当に...いいんですか?」
「ああ。ただ、良い素材が必要だ。Bランクダンジョンに一緒に行ってもらう」
「Bランク...!?」
楓は躊躇する。今の自分の装備で、Bランクは厳しい。
「大丈夫よ。私と零がいるから」
香織が優しく声をかける。楓は二人を見比べ、そして深く頭を下げた。
「お願いします...私を、連れて行ってください!」
週末、三人はBランクダンジョン「古の森」に挑んだ。
入口から既に、空気が違う。濃密な魔力が漂い、木々の影から敵意の視線を感じる。
「気をつけて。ここからは本物の戦場よ」
香織の警告に、楓は緊張で喉を鳴らす。しかし、負けるわけにはいかない。零が自分を信頼して連れてきてくれたのだから。
「来るぞ」
零の声と同時に、三匹の魔狼が飛び出してくる。Bランクの魔物、その牙は鋼鉄を噛み砕く。
「アイスボルト!」
香織の魔法が、一匹を凍結させる。零が一閃で二匹目を切り捨てる。残る一匹が、楓に襲いかかった。
楓は反射的に剣で受け止める。しかし、ボロボロの剣では──。
ガキン! 剣が折れた。
「くっ...!」
楓は素早く飛び退き、折れた剣で応戦する。しかし、半分の長さでは魔狼に届かない。
零が割って入り、魔狼を瞬殺する。
「大丈夫か」
「すみません...やっぱり、私では...」
「違う」
零は楓の手から折れた剣を取り、見つめる。
「この剣が悪い。お前は、よく頑張った」
楓の目に涙が浮かぶ。今まで何度も、装備のせいで失敗してきた。そのたびに、自分が弱いからだと思っていた。
「新しい剣ができるまで、下がってろ。俺と香織で進む」
「でも...」
「お前の本当の力は、これからだ」
零の言葉に、楓は強く頷いた。
零と香織が前線で戦い、楓は後方で二人をサポートする。魔法の材料を運んだり、周囲を警戒したり。戦闘には参加できないが、できることをする。
やがて、中ボス部屋に到着する。扉を開けると、巨大な樹木の魔物が待ち構えていた。
「トレント...厄介ね」
香織が杖を構える。トレントは火に弱いが、香織は氷魔法使いだ。
「俺が斬る。香織は援護」
「わかったわ」
戦闘が始まる。トレントの枝が鞭のように零を襲う。零はそれを切り払いながら接近するが、トレントの再生能力が高く、切っても切っても枝が生えてくる。
「キリがない...」
「零、あの中心部! 多分、核があるわ!」
香織の指摘に、零は中心部を見る。確かに、木の内部に光る何かがある。
零は大きく跳躍し、トレントの中心部に剣を突き刺す。核が砕け、トレントが崩壊する。
戦闘後、零はトレントから特殊な木材を回収する。そして、地面に落ちている光る鉱石を見つけた。
「これは...ミスリル?」
ミスリルは、軽量で硬度の高い希少金属。武器の素材として最高級だ。
「ラッキーね。これで楓ちゃんの剣が作れるわ」
香織は嬉しそうに言う。楓も遠くから駆け寄ってくる。
「ミスリル...?」
「ああ。これでお前の剣を作る」
「そんな...高価な物...」
「お前が俺たちの仲間なら、当然のことだ」
零の言葉に、楓は涙を流した。今まで誰も、自分をこんなに大切にしてくれなかった。
三日後、武器部室。
零は三日三晩、ほとんど寝ずに剣を鍛造し続けた。ミスリルは加工が難しく、何度も失敗しかけた。しかし、楓のために、最高の剣を作りたい。
そして──完成した。
銀色に輝く刀身、軽量だが強度は鋼鉄の三倍。柄には魔力伝導の紋様を刻み、楓の魔力を剣に流せるようにした。
「零、まだ起きてたの?」
扉が開き、香織が入ってくる。手には温かいコーヒー。
「今、終わった」
「見せて」
香織は完成した剣を見て、息を呑む。
「綺麗...これも、芸術品ね」
「実用性重視だ」
「でも、美しいわ。零が作る武器は、全部美しい」
香織の言葉に、零は少し照れる。
「楓を呼んでくる」
香織が楓を連れてくると、楓は完成した剣を見て固まった。
「これが...私の?」
「握ってみろ」
楓は震える手で剣を握る。その瞬間、剣が淡く光り、楓の身体に魔力が流れ込む。
「軽い...そして、強い...」
今まで使っていた剣とは、比較にならない。まるで自分の腕の延長のような、完璧なバランス。
「外で試してみろ」
訓練場で、楓は標的に向かって剣を振るう。
一閃。
標的が真っ二つに切断される。今までなら、何度振っても切れなかった硬度の標的が。
「嘘...」
楓は自分の剣を見つめる。この剣なら、どんな敵とも戦える。
「零様...」
楓は零の前に跪き、深く頭を下げた。
「この命、零様に捧げます。一生、零様のために戦います」
「そこまでしなくても...」
「いいえ。零様は、私の全てを変えてくださいました」
楓の目には、絶対的な忠誠の光。零は少し困惑しながらも、頷いた。
「じゃあ、頼むよ。これからも一緒に戦ってくれ」
「はい!」
翌週、実技測定。
楓の戦闘力測定に、多くの生徒が注目する。貧乏剣士が、神代零の武器を手にしたらどうなるのか。
「桐生、始めろ」
楓は新しい剣を抜き、ダミーモンスターに斬りかかる。
一撃。ダミーが粉砕される。
測定器の数値が急上昇する。A+ランク。
「A+...だと?」
教師が驚愕する。つい先週まで、楓の戦闘力はBランクだった。それが一週間で、A+?
「神代の武器は...どうなってるんだ」
観客席がざわめく中、楓は零の方を見て微笑む。零も小さく頷いた。
放課後、三人は一緒に帰路についていた。
「これで、三人パーティーね」
「ああ。次はBランク以上のダンジョンに挑める」
「零様、どこまで行くんですか?」
「まだわからない。でも、できる限り高みを目指す」
零の言葉に、香織と楓は顔を見合わせて笑う。
「じゃあ、私たちもついていくわ」
「零様の行くところなら、どこまでも」
三人の影が、夕日に長く伸びる。
最強のトリオが、今ここに誕生した。そして彼らの冒険は、まだ始まったばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます