ep.9

仮想現実とは言え中々濃いものだ。

確か向こうは数倍の速さで時間が経っているんだったな。

……いや、にしても濃すぎると思うが……


アラームが鳴りそうだったのはどうやら以前までの設定がそのまま引き継がれていたようだった。

とりあえずこれは削除して、必要なアラームだけ設定。

軽く小休憩を取って、妹に連絡を入れておく。

確か向こうでもメールは見られるはずだったから、届いたら分かるだろう。

それじゃまたログインしますか。


「……で、これはどういう状況なんだ?」

『おはよう、リベット』


目を開けると俺の上にミウロゥが乗っていて、左右にリルナとレルナが抱きついていた。

なんで?


「おはようございます、お父様。素晴らしい朝です」

「おはようございます、お父様。幸せな朝です」

「「朝からお父様のご尊顔を拝見できた喜びに感謝を」」

「おう、おはよう。とりあえず三人とも降りろ、な?」


ログアウトする前、ベッドに引きずり込まれたのは覚えてる。

その時はリルナとレルナと俺しかいなかったはずだ。


「いつの間に忍び込みやがった……」

『ヌッフッフッ、私にできないことは多いけど、出来ることはできるのだよ』


どう返せばいいんだよ……

で、2人は2人で離れないし。


「とりあえず外に出るぞ。メニーリア先生に挨拶しないと」

『おじいちゃんから伝言。挨拶はいらない。達者でな、って』

「まぁ忙しいだろうしな」


病院を出たところで、メールが届いた。

えーと……これはゲーム内じゃなくて現実の方でリンクさせておいたメールだな?


【王都へようこそ!】

『もう辿り着いたの? アタシの予想より随分速かったけど、何かあったの? 色々話ししたいから喫茶店で待ち合わせしようよ。場所は王都にある冒険者ギルドの近くだから!』


「ミウロゥ、少し用事ができたんだが、どうする? 何だったら別行動でもいいが」

『家族と会う件でしょ? 私も行くよ。挨拶しないとね』

「リルナ、私たちもお父様のご家族に挨拶をしないといけません」

「レルナ、私たちもお父様のご家族に紹介していただく必要があります」

「「お父様、私たちもご家族と会いたいです」」

「分かった分かった。分かったから引っ張るな」


場所知らないだろ。


『それで場所は?』

「冒険者ギルドの近くに喫茶店があるんだってよ。そこで待ち合わせだ」

『ほむ……なら正装しないとね。まだ残ってるかな……』

「正装……俺もこのボロくなった服から着替えねぇとな……」


背中とか酷くなってる予感がしてる。

というかさっきから視線を感じてる。


『とりあえず行ってみよう。昔からの行きつけがあるんだ』

「昔ってどれだけ前だよ……」

『まぁまぁ。こっちだよ、着いてきて』


そう言って歩き出すミウロゥ。

その後ろを着いていきながら王都の中を軽く見回す。

木造の2階建てが随分と多い。

通りもリニダーの街と比べると人が多い。

流石は国の中心にある王都と言ったところか。

確か王城がオススメだったな。

夜に見た時はただのデカい城って感じだったが……ここからじゃあまり見えないな。


『着いたよ。まだやってて良かった』

「服飾クレイダン?」


ショーウィンドウには服を着せたマネキンが置いてある感じからして服屋なのは分かるが、


「ホントにここか?」

『間違いないよ、ささ入ろう』

「お、おう」


扉を開けるとカランカランとベルが鳴り響く。

店の中はそこそこの広さで、壁際には一定間隔でマネキンが置いてあった。


「あら、お客様? いらっしゃいませ」

「ウチは服屋だよ。生憎と食べる物は置いてないんだ」


店の奥からそんな声が聞こえてきて、そっちを見るとカウンターの向こう側に少女と女性がこちらを見ていた。


『あれ? ベストーリオのおじいちゃんは?』

「ベスおじいさんの知り合い? おじいさんならしばらく前に亡くなったよ」

「私たちが彼の跡を継いだのよ」

『そう……』


顔見知りが亡くなってたら悲しくなるわな。

とりあえずそっとしておくか。


「見ての通りボロボロでな。少し見繕って欲しい」

「確かにボロボロだね。それにその服……初心者さんかな?」

「多分始めたてね。私たちもプレイヤーなのよ」


おお、ここにきて初めて俺と同じプレイヤーと会えた。

遠くから見たことはあったが、話すのは初めてだから新鮮だな。


「リベットだ。数日前に始めたばかりでな」

「私はパレイオよ。服屋の店員の方ね」

「私はレギン。服屋の生産の方かな」


少女がレギンで女性がパレイオか。


「それで、服を見繕ってほしいの?」

「ボロボロだからな。だが手持ちが非常に少なくてな……」

「ウチは最低でもこれくらいは取るけど」


差し出された金額は到底じゃないが支払えない。

うーむ……


「お金の代わりになにか面白そうなものがあればそれでもいいわよ?」

「面白そうなもの……」

「皮とかそういうのでいいよ」


皮ならちょうどいいのがあるな。


「これはどうだ? プロテージャーの皮なんだが」

「へー? 月光の森から来たんだ。にしては随分早いね?」

「巻き込まれてな」


ミウロゥの方を見ながら言うと、2人は納得してくれたようだ。


「となると……満月花関係?」

「そうだ。一応根っこ付きの花もあるが……」

「もし複数あるなら1株でいいから欲しい。その代わりお金は取らないで服を見繕ってあげる」

「そりゃいいが……いいのか?」


こっちにとってはありがたい話だが……


「もちろん。満月花は採取が困難だからね。それにあのプロテージャーもいるし……厄介極まりないのさ」

「1株とは言え植えれば満月の夜には収穫出来るし、種も取れる。こっちにとってはお金より欲しいものなのよ」

「ほー……あげてもいいか?」


俺の後ろでじっとカウンターを眺めている2人に聞く。

2人から貰ったものをそのままあげるのは気が引けるからな。


「はい、お父様。回り回ってお父様の役に立てるなら花も本望でしょう」

「はい、お父様。気持ちが大切ですし、花はまた取りに行けばいいのです」

「「お父様がなされることは何においても優先されるべきなのですから」」


ちょっと重たいな?


「というわけで、服と花を交換で頼む」

「面白い双子ちゃんね。パートナー?」

「まぁちょっとな」


正確に言うとちょっとややこしいし、どこまで話していいものか分からないからな。


「服はどんな感じがいい? ウチは見ての通り一通り取り揃えているわよ?」

「可愛いからカッコイイまで、夜のパーティーから戦闘服まで。ありとあらゆる種類は揃えているよ」

「なら、この子達と同じ感じの服はあるか?」


正直に言うと俺も着てみたい。


「あら、いいわね。確かあったはずよ」

「親子でお揃い? 最高だね」


左右からギュッと抱きしめられてる気がするが、まぁいいか。


「ところで着替えるにはどうすれば」

「服を持った時に出るはずよ」

「そのまま変更が可能で楽なのよ」


「似合ってるじゃない」

「そりゃどうも」


渡された燕尾服とズボンは確かにそのまま変更できた。

ゲームらしくて助かるな。


「それとこれは私たちからプレゼント」

「御新規さんには優しくがモットー」


そう言ってリルナとレルナにはお揃いのポシェット。肩からかけられるようだ。

で、俺には


「スーツケースとシルクハット?」

「生憎とステッキは専門外なのよ」

「ポシェットは流石に似合わないし、スーツケースなら完璧ね」


杖までお揃いにしようとしてたのか。

そりゃいいが……


「流石に貰いすぎだ。追加でこれもだそう」


追加で新月花を1輪カウンターに置いておく。

固まってる2人をそのままに外へ出る。

そこには先に出ていたミウロゥがいた。


「よ、待たせたな」

『ううん。それよりも随分と格好よくなったね』

「こういう格好も悪くないもんだが……汚したくなくなるな……」

『ならしなきゃいいのに』


呆れたようなおかしいような顔をしてミウロゥがそう言う。


「……爺さんのことだが」

『気にしないでいいよ。いつかはそうなると思ってたし』

「……そうか。なら俺は何も言わない」


多分それでいいんだろう。


『それでよし。さっ、喫茶店? 目指していこう!』

「お、おい! 引っ張るなって!」


思わず転けそうになり、ミウロゥにそういうが、


どこか楽しげに笑っていた


ので……まぁいいか。


そうして走ること数分。

確かに冒険者ギルドの近くに喫茶店はあった。

ここで待ち合わせとは言うが、時間の指定がないんだよな……


「お? 兄さん、こっちこっち!」

「おー……随分と甘そうなもん食ってんな」


声の方を向くとテラスに待ち合わせ相手はいた。

巨大なパフェを食べながらだが。


「仮想現実だしね。向こうじゃ食べられないんだからたっぷり食べなきゃ損ってものよ」

「お、おう」

「で、兄さんのことなんて呼べばいいの? アタシはサリア」

「リベットだ。んでこっちが」

『ミウロゥ、よろしく』


左手をあげてフリフリするミウロゥはまだいいとして、


「この人がお父様のご家族様ですか」

「この人がお父様と親しい方ですか」

「「初めまして、私たちはお父様の娘です」」


勝手に娘になるな。


「お、おお……リベット兄さんもついに子持ちか……」

「違うからな」

「分かってるよー。名前は……リルナちゃんとレルナちゃん……ね」

「名前……見えるのか?」


俺がそう言うとサリアは信じられないような顔をする。


「兄さんマジで言ってるの?」

「マジもマジ。大マジだ」

「えー? 冒険者ギルドで最初に教わることだよ?」

「そこのミウロゥに巻き込まれてな。ギルドで証を作った後は月光の森に一直線だ」

「嘘っ!? あの森は初心者にはだいぶ厳しいのに!」


だろうな。少なくとも初心者が相手をするようなボスじゃないしな。


『そこは私が頑張った』

「いやまぁ、確かにそうだが……」

「そんなに強いの?」

「世界を救うくらいには強いらしいぞ」


ブイサインをするミウロゥを信じられないという表情で見つめるサリア。

いやまぁ、気持ちはわかるが。


「ま、まぁそれはいいとして……じゃあ兄さん色々知らないんだ」

「まぁほぼ知らないな」

「んー……アタシだけじゃ手に負えないから……ちょっと待ってね」


そう言ってウィンドウを操作し始めるサリア。

何をするかはさっぱり分からんが……とりあえずなにか注文するか。


「3人は何が食べたい」

「お父様、私たちはこの柔らかそうなほっとけーきを食べてみたいです」

「お父様、私たちはこのとても甘そうなほっとけーきを食べてみたいです」

「「そしてお父様と一緒に食べたいです」」

『んー、私はこのぷりんで』


店員を呼べばほんの少し待つだけで届いた。

仮想現実ってすげぇな……


「これがほっとけーきですか、お父様」

「随分と丸いのですね、お父様」

「「とても美味しそうですよ、お父様」」

「温かいうちに食べちまえ。美味いぞ」


恐る恐ると言った感じで2人同時にフォークを突き刺す。

切ってないからもちろんそのままホットケーキはダランとなってしまう。

アタフタする2人に少し笑ってしまうが、


「ほれ貸してみろ」


2人のフォークを手に取って、まずは皿に戻す。

付いてきたナイフで1口くらいに切り分ける。


「ほい、あーん」


フォークでリルナの口元に持っていく。

口を大きく開けたリルナにホットケーキを入れる。


「ほ、ほいしいれす、おほうはま!」

「り、リルナだけずるいのです、お父様! 私たちにもしてほしいのです!」

「わかってるわかってる。ほれレルナ」


レルナにも同じようにホットケーキを差し出す。

2人して美味しそうに食べているのを見ると少しホッコリする。


「やっぱり娘じゃん」

「違うと言っているだろ」


ニヤニヤとした顔でこっちを見ているサリナは知らん。

自分もやってもらえばよかったという顔をしているミウロゥはもっと知らん。

既に無くなってるじゃねぇか。

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