第2話
ブラドン男爵家は、田舎に領地を持ち、主に小麦や保存食といった兵糧を卸す、堅実的な家柄だ。
連れてこられたその日の晩餐でジェイミは、赤ワインをふんだんに使い、トロトロに煮込まれた肉のシチューに、貴重な卵が使われたポテトサラダ等、普段口にしないものばかりが並ぶ食卓に戸惑う。
「遠慮なく食べなさい」
「頂きます」
歓迎してくれているのだから、食べなければ悪いと思い、出されたものをなんとか食べて、次の朝、腹を下した。
「すまない。無理をさせてしまった」
「私の方こそ、何も言わなかったのが悪いので。食事は質素にお願いします」
「料理人に伝えよう」
「肉は、野生動物か、羊がいいです。牛や豚は、肉の味がしないといいますか……」
「そうか……?」
「はい。それから、その……この部屋は広すぎて落ち着きません」
「うん……?」
「風が入らないので、のぼせてしまいそうで」
「待て。ジェイミ殿は、実家で虐げられていたのでは」
「違います! 義弟は素直じゃないので誤解を招きやすいですが、優しい子なのです。嫡男としてのプレッシャーに耐えられなくて、血を吐いて倒れた私の代わりに伯爵家を継いでくれる、兄思いの子なのです」
「な、なるほど……」
貴族とは思えない見窄らしい格好をしていたが、こうして見れば痩せてはおらず健康的だ。
田舎の男爵家にジェイミをやったのも、社交界だの贅沢な暮らしだの、貴族社会が肌に合わないジェイミのため、社交に出なくても支障がない家をと、わざわざ探して縁を結んでのことだった。
「エドモンド――私の元婚約者は、ケアリーの運命の番だったんです」
「そんな御伽話のようなこと……」
「そうなんです!」
ジェイミは身を乗り出して目を輝かせる。アルファ、オメガには運命の番が居ると言われているが、ほとんどが出会わずに一生を終える。運命の番など、伝説に等しい存在が目の前にあり、ジェイミは自分が恋の障害であるのはわかっていた。エドモンドの婚約者であることにやきもきし、ようやく実った恋人たちに安堵すらしている。
なので、男爵との婚約にも、伯爵家の継承についても、反意など少しもないどころか、賛成しかない。
「それと、これからお出かけされるのなら、雨具をお持ちください」
「晴れているようだが」
「午後から雨になります」
半信半疑だったが、ブラドン男爵は雨具を持って食品加工場へ視察に出かけると、ジェイミの予言通り午後から雨が降り出した。
「ジェイミ、雨が降ると何故わかった」
屋敷に帰り、質素な食卓を囲んで婚約者に問う。
「長年の感のようなものです。草原で獲ったベリーを乾かしたり、狩猟に出掛けたりしていたので、雲の様子や、風の流れ、空気に感じる肌感覚だとか」
優れているといわれるアルファでも、興味を持って知ろうとしなければわからない。
義弟の計らいで野でのびのび生きてきたジェイミの特技だった。
ジェイミの天気予報は、天日干しの干し肉等、天気に左右される加工食品を作る男爵家に大いに貢献した。
「やっぱり、ケアリーは見る目のあるなぁ」
嬉しそうにポツリと呟くジェイミに、婚約者が虐げられているのではと勘違いして攫うように連れてきてしまったブラドン男爵は、気不味気にそっと視線を逸らした。
――了
【BL】伯爵令息、婚約者を義弟に取られて田舎男爵に嫁ぐ 椎葉たき @shiibataki
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