第2話 サックス、時給950円で鳴く
昨日の夜、近所のコンビニに行ったら、レジにサックスがいた。
金色の本体にエプロンを巻き、レジ横のホットスナックコーナーからジャズのリズムで「いらっしゃいませ〜」と流れてくる。
「……あれ? サックス?」
「おぅ、バイト始めたんだよ。深夜帯、時給950円。音程外すとペナルティ食らうけどな」
しゃべるのか。
いや、そもそも楽器がバイトしてる時点で、いろいろどうかしてる。
「コンビニで何してんの?」と聞くと、
「夢のためさ」と、サックスはちょっと遠くを見た。
「いつかオーケストラじゃなくて、レジスタでソロ吹きたいんだ」
「……レジスター?」
「違う。今のはダジャレだ」
笑えない。だがかっこいい。
そのとき、後ろの厨房からビブラフォンがコロコロと揚げ物を揚げながら現れた。
「おーい、唐揚げ追加だよー。あと、おでんのチューニングも頼むわー」
「ラジャ」とサックスが言いながら、おでん鍋にチューナーをぶっ刺していた。何をしているのかは、もう考えないことにした。
突然、入り口の自動ドアが開き、フルートの強盗が入ってきた。
「動くな! このC音を吹くぞ!」
空気が一瞬で張り詰めた。
でも、サックスは落ち着いていた。
「やめとけ、俺はF#m7だ。……その音、濁らせるぞ?」
沈黙。
そして、強盗のC音が揺れた瞬間、厨房からビブラフォンがフライパンを投げ、天井に当たってスネアドラムが鳴り、なぜかセブンのテーマが流れ始めた。
勝負ありだった。
強盗は音階的敗北を認め、すごすごと退店。ピロロンとチャイムが鳴った。
サックスは深呼吸し、レジに戻った。
「おい、ポイントカード持ってる?」
「……ないです」
「そっか。じゃあ、君の心にスタンプ押しとくよ」
レシートの代わりに渡されたのは、小さなメロディだった。
---
まとめ(もちろん意味はない)
サックスがレジ打ちしてても驚いてはいけない
音階は武器になることがある
ビブラフォンはたぶん厨房向き
心に響く接客ができる人(楽器)は、時給以上の価値がある
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます