第9話
「ぐ、ァ、いてッ……昔を思い出しちまったじゃねえか、おいッ」
式崎荒哉は首を抑えながら目覚める。
硬い床での睡眠は中学生以来であった。
嫌な感覚を覚えながら携帯端末を起動する。
「今、何時だぁ?」
訝し気な表情と共にアルカヌムを確認。
通常の携帯端末と同等の機能を持つアルカヌムの画面にはデジタル時計の表記。
時刻は昼前に差し掛かった11時頃である。
既に遅刻は確定であるが、式崎荒哉は何か忘れている気分に陥る。
「あー……昨日は、あの、銀髪女と戦闘して、そんで……」
そして、式崎荒哉の脳裏に鮮明な記憶が甦る。
公舎の壁を破壊して逃走する事に成功した式崎荒哉。
それを思い出すと、段々と目が冴えて来た。
「……壁、直してねぇ、大事件じゃねぇかよ」
式崎荒哉は蒼褪めながら体を起こす。
公舎の一部が破壊されていれば当然騒ぎになるだろう。
そうなれば、当然ながら誰が破壊した、と言う事になる。
外部からの破壊活動であれば、警察すら動く事態だ。
であれば、必然的に式崎荒哉が炙り出される可能性がある。
「く、っそ、今から行けば間に合うか?んな訳ねぇか、あぁ、でもッ」
式崎荒哉は気が付いていない。
と言うのも、建物を破壊する程の戦闘を、未だに経験していないのだ。
アルカヌムは、別名にして神秘と呼ばれる。
少なくとも戦争の序盤ではアルカナ・オーナーが動き回り易くなる様に秘匿行為が行われる。
人避けや建物の修理・修復、中には記憶処理や記憶媒体の改竄。
現時点では式崎荒哉が破壊した公舎は人に見られる前に修復されているのだが。
式崎荒哉は隠匿の為に自ら公舎へ向かおうとしていた。
後先を考えない馬鹿丸出しの行動ではあるが、責任感があるのだろう。
「いってきまァすッ!!」
叫びながら学生服に着替えた式崎荒哉は全速力で疾走する。
嵐の様な行動に、騒々しいと眼を擦りながら目を半開きにするアリサ・シルプス・アルビオン。
「ん……あらやぁ?」
布団から出て来たアリサは銀線の様な髪をハネらせ、寝癖を作った状態で周囲を見回す。
「いま、がっこ、行くって……でも、がっこう、って……んん?」
アリサ・シルプス・アルビオンの記憶は曖昧である。
少なくとも、式崎荒哉が通う学校には、彼と同じ様にアルカヌム所有者のアルカナ・オーナーが存在しているのだが。
この危機感の無さは心配していない、と言うワケではない。
アリサ・シルプス・アルビオンに与えられた記憶はあくまでも、式崎荒哉との蜜月な記憶のみ。
其れ以外のイベントや情報に関する情報は与えられず、あくまでも式崎荒哉との行動に際して得た断片的な記憶しかなかった。
即ち、今のアリサ・シルプス・アルビオンには焦燥感は無く、式崎荒哉を見送ってしまう事となるのだった。
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