第5話

「な、ァ」


手元にある愚者のアルカヌムを使役し、ウェポンスキルである【道化師の致命刃】を選択し武器を生み出そうとするが、それよりも早くアリサ・シルプス・アルビオンの手が式崎荒哉の手首に触れる。


「私、もう、特殊部隊から離れる事にしたんだ、カードはあるけど、こんな時間に、外で野宿は通報されかねないし……ねえ、アラヤ、キミの家に私を泊めてくれないかな?」


彼女の甘えた子猫の様な声色は、殺意など籠っていない純真な言葉だった。

アリサ・シルプス・アルビオンにとっては、式崎荒哉とは恋仲の様な関係性であると認識している。

記憶の中で彼と共に未来を突き進んだ記憶が地続きの様に、現実世界で夢の中を渡り歩くかの様なフワフワとした感覚で、アリサは夢か現かも分からぬままに話し掛けている。


(ざけんじゃねぇ、さっきまで殺し合ってた奴だぞ)


如何に彼女が殺意を持ち合わせていなくとも。

彼女との関係性に関する記憶など無い式崎荒哉にとっては十分に罠であると確信している。

当然、彼女を突き放す事こそが、式崎荒哉にとっての最善であるのだが。


「私、また……キミと一緒にいたいの」


式崎荒哉の手首を掴み、その線の細い指先で式崎荒哉の指を絡めて来る。

恋人の様に相手の熱を欲するアリサの行動に、一瞬の思考が停止した式崎荒哉は先程までの敵意が忘却の彼方へと消え去った。


(よく見たら可愛いんじゃねえのか?)


人工的にデザインされたクローン体であるアリサは当然ながら万人受けしやすい美貌を持ち得ており、式崎荒哉は彼女の美貌に男としての欲求が沸き上がった。

だが、道端で美人局に現金を毟り取られるのとは訳が違う。

流石の彼も、愚鈍な頭でありながらも、彼女の甘えた仕草や声色に騙されないと首を左右に振り誘惑を振り切る。


(いや、落ち着け、さっきまで殺し合ってたんだぞ、なのにこのままエロい展開になる筈ねぇだろハニトラだハニトラ)


頑固とした決意を以てアリサの手を振り解こうとするが。

アリサ・シルプス・アルビオンの手によって引き寄せられた式崎荒哉の腕が、彼女の慎ましい胸元に向けて手を添えられると、ゆっくりとアリサは深呼吸を行う。


「心音、感じる?キミを想うと、こんなにハネるんだよ?アラヤ」


式崎荒哉を想像するだけで心臓が高鳴る。

その音の高さを掌を通して伝えようとしたのだろう。

激しい胸の高鳴り、上昇する温度、これを恋と言わずなんと言う。

しかし、式崎荒哉の脳裏には別の感情が浮き彫りとなる。


(胸だ)


掌に収まる程の矮小な胸。

しかし、それは美麗な少女の胸である。

慎ましくも品が漂う胸だ。

指先から伝わる柔らかな感触は否応なしに女性の胸であると情報が伝達していく。


(クソ、罠だって分かってるのに……揉む手が止まらねぇ……ッ)


悔しい表情をしながら、存分に彼女の胸を堪能する式崎荒哉。

その指先の圧を胸元で感じるアリサ・シルプス・アルビオンは呼吸を荒くする。


「ア、ラや、……んぅ」


記憶の中で思い浮かぶ二人が繋がった時の事。

その指の感触が衣服越しから感じ、何処かもどかしい気分になる。


「……家に、いれてくれる?」


潤んだ瞳と掠れる声に、式崎荒哉の答えは決まり切っていた。

愚者・式崎荒哉は、ハニートラップめいた行為に弱かった。

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