第3話

「私は……きみにとっての、アリサ、だったんだ」


唐突に攻撃を止めて天を仰ぎ涙を流す、まだ名前すら知らない敵が、その様な台詞を吐いた事で式崎荒哉は疑問符を浮かべていた。


「お前……頭、大丈夫か?」


彼女の脳裏に芽生えた記憶に対してその様に辛辣な言葉を掛ける式崎荒哉は、自分が相手を心配している場合ではない事を思い出し、後ろを振り返る。


「おらァ!!」


現在、学校の校舎では、長い廊下が続いており、その突き当りの壁に叩き付けられた式崎荒哉は逃げ場など無かった。

だが、彼女の攻撃と共に壁が罅割れた事で、この壁が薄い事を理解すると、拳を強く固めて壁を激しく殴打すると、壁が簡単に崩壊し、その奥には校舎裏の茂みが見えていた。

三階建ての校舎、その最上階ではあるが、式崎荒哉は相手の隙を突いて一目散に飛び降りる。

そして暫く、記憶の中で余韻に浸り続けていたアリサは、式崎荒哉が飛び込んだ事を後になって察すると狼狽する。


「あ、ぇ?あ、アラヤッ!?」


驚きと共に銀色のローラースケート型の機械律兵器を使い廊下を滑走するアリサ・シルプス・アルビオン。

急激な心拍数の増加に対して、彼女のインカムから声が響いて来る。


『アリサ、どうした?急に心拍数が上がったぞ?相手から何かマジックでも受けたか?』


特殊部隊の仲間達からの声に対して、アリサ・シルプス・アルビオンは舌打ちをすると共にインカムを耳から引っぺがして指先に力を込めて握り潰す。


「うるさい、アラヤの声が聴こえないッ」


彼女の記憶の中には、既に特殊部隊に対する強い憎しみなどが感じ取れた。

彼らはアリサ・シルプス・アルビオンのクローンを使い吐き気を催す様な行為をしてきた経験がある。

そんな彼らに対して嫌悪感しかなく、早々に特殊部隊からの離脱をする事に決めたのだ。


そして、彼女は式崎荒哉を追い掛けるべく、戦車のアルカヌムから発生したスキルツリー『ウェポンスキル』である『双戦輪の蹄鉄クワドリガ』を使役して壁穴から飛び出る。

そして足を使い、車輪を壁に吸い付く様にしながら滑走すると、壁を降って式崎荒哉の元へと向かい出すのだが。


「っ……く、アラヤ、何処に行ったの!?」


既に式崎荒哉の姿は何処にも無く。

雑木林を利用して式崎荒哉は姿を消したのだった。


一人、絶体絶命の場から何とか脱出する事が出来た式崎荒哉は雑木林を超えた先の勾配な坂を滑りながら交通道路へと着地した。


「か、はッ……あぁ、何とか生きてやがる」


式崎荒哉はそう言いながら胸元をそっと撫で下ろす。


「しかも運が良いぜ、他のアルカナ使いと接触出来るなんてなぁ」


本来の式崎荒哉は夜な夜な出現するエネミーの討伐をモットーにしていた。

と言うのみ、式崎荒哉に手渡された携帯端末……『アルカヌム』を獲得した者に関する宿命とも言えるだろう。


『アルカヌム』所有者は、世界に出現するエネミーモンスターを討伐する事で経験値を得る。

その経験値によりレベルアップが可能で、レベルが1上がる毎にスキルツリーを解放する為のポイントが付加される。


当然、生身でエネミーモンスターを狩る事も出来るが、それでは大怪我をする可能性がある。

何よりも『アルカヌム』には元々、備え付けられた固有のスキルと言うものがある。

それが『アルカナスキル』と呼ばれる特殊な能力であり、その中でも式崎荒哉は特別な『アルカナスキル』を所有していた。


「『愚者』のアルカヌム、起動、っと」


そう呟きながら式崎荒哉は道路を歩きながら携帯端末を起動した。


式崎荒哉が所有するアルカヌムは『愚者』。

『アルカナスキル』は『無限の鬼牌ワイルドカード』。

付属するスキルは『アルカナ・オーナーと接触した際に、対象のスキルツリーを自身のスキルツリーとして一部、開放する』と言う効果である。

即ち、式崎荒哉には、アリサ・シルプス・アルビオンと同じ『戦車』のアルカヌムによるスキルツリーの一部が解放されている状態だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る