第2話

アリサ・シルプス・アルビオンは異国の特殊部隊に属する兵士であった。

『アルカヌム』と呼ばれる現実世界に干渉する異常現象を発生させる機械端末。

このバトルロワイヤルに参戦した参加者が優勝すれば、どの様な願いも成就される世界が再構築されると言う噂を耳にした。

これにより、アリサ・シルプス・アルビオンを含めた特殊部隊は日本へと赴き、其処で『戦車』のアルカヌムを所持した。

最初に所有する事が出来たアリサ・シルプス・アルビオンは、そのまま他のアルカヌムを強奪する為に他のアルカナオーナーを見つけ次第、強襲。

その内の一人である、式崎荒哉と交戦した時。


『媚売って死ぬくらいならよォ、意地ィ張って死んでやるよ』


不思議な男だった。

死とは本来一度しかないものだ。

それを迎える時、きっと恐怖を覚えるだろう。

だが、男には微塵も恐怖など無かった。

恐怖を踏破し、死を抱いて絶命する覚悟を抱く。

この様な男は、今まで見た事が無かった。

何よりも、死と言う概念があやふやな彼女にとって、有り得ない存在であった。


『……ぁ』


彼女の記憶の中。

アリサ・シルプス・アルビオンは他のアルカナ所有者との戦闘により損傷。

一次的に撤退をするも、特殊部隊『ヴェンデッタ』が彼女を回収。

その肉体に蓄積された情報を他の肉体へ移す為に新たな肉体が用意される。


『目覚めたか、アリサ』

『心配するな、お前は死なない』

『〈アリサ〉と言う作品は死ぬ事は無い』


彼らの淡々とした口調。

周囲には、培養液に満たされた人の姿。

それは何処までも自分に似通った姿であり。

それこそ、アリサ・シルプス・アルビオンと言うシリーズを示す存在。


『い、ゃ』


アリサ・シルプス・アルビオン。

彼女は複数のクローンの内の一体であった。

心の無い人造人間である彼女は、本来ならば替えの聞く安価な量産品である。

けれど、今回のアリサ・シルプス・アルビオンには心があった。

感情を理解し、咀嚼し、自らの肉体へと蓄積した、確かな心。

それは他でも無い、一時的に共闘し、そのまま恋仲へと発展した男の存在があった為だ。


式崎荒哉。

彼が居たからこそ、アリサ・シルプス・アルビオンは完成したと言っても良い。

けれど、幾ら肉体が無尽蔵に生成される量産型であろうとも。

彼女の記憶や情報までは転写出来ても、心までは転写出来ない。

彼女と言う存在は此処で終わりなのだ。

新たなクローンがアリサ・シルプス・アルビオンとして生きるのならば。

負傷した彼女は最早、不要な欠陥品として処分されるのみ。

昔の自分ならば……終点を前にしても取り乱す事も恐怖も憶えなかっただろう。

だが、今の自分は違う。

今が死ねば、きっと、式崎荒哉に対する感情も消え失せる。


喪いたくない、消えたくない、死にたくない。

涙を流し、希う彼女の声は、彼らに取ってはただの雑音でしかない。


『な、んで』


何故。

アリサわたしクローンわたしなのだろう。

もっと、傍にいたい。

式崎荒哉と言う男の元にいたい。

けれど最早、その願いは叶わない。


脳内に埋め込まれた記憶媒体のチップを摘出されかけた、その時。

研究所を破壊し、その場に訪れる満身創痍の男。

彼の元には騎士に似通う戦士を従え、彼は彼女の姿を視認すると、その肉体を抱え込んだ。


『アラヤ、……何故、ここに?』

『何処に居ようが見つけてやらぁ』

『私は、不完全、だよ……キミの役に立てない、新しいアリサわたしは今よりも、失敗しない完全なものになる、のに』

『お前は、お前しか居ないだろ、傷ついたお前が、消え入りそうなお前が、……俺の記憶に残るお前が、俺にとってのアリサおまえだ』


何よりも。

誰よりも。

その言葉を欲した。

クローンの中で、自分だけが特別だと。

どれ程、待ち望んでいた言葉だろうか。


心の奥で求めていた言葉を受けたアリサは。

その時、本当の意味で、式崎荒哉と言う男に恋をした。

その胸の高鳴りを、愛しいと思える感情を、その男から与えられ、受け入れた。


そして―――。





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