第4話

「なんか検問とかあるらしいぞ」


「アナザーで抜けるから問題ねぇ」


 狼の後ろでスマホを見ながら話しかける慧士に、彼は応える。


「アレが顕現した巣だとしたら、神級って奴が出てくる予兆なんだよな?」


「ああ、今から楽しみだな」


 フルフェイスのヘルメット越しに、この男が笑っているのがわかる。


「この場合は頼もしいって思っていいのか?」


 誰に言うでもなく、1人呟く。


 一般的にゲヘナのランクは、下級、中級、上級、最上級の4つに分けられている。


 最上級というのがゲヘナの最高位としているが、これは意図的にその上の存在が隠されていると言うことだ。


 『神級、そしてそれすらも超越するゲヘナが存在する。私たちはソレに敗北したの』


 ゲヘナの書を受け取ったときにツクヨミが話したことを思い出す慧士。




「これは……」


 他の強い祝福持ち達と合流し、現地、繭の前に到着した母、流美は絶句した。


 警官隊と先に到着していた手練れ達がたった1体のゲヘナに皆殺しにされていたのだ。


「なんだ、また雑魚どもが来たのか」


 神話に出てくるミノタウロスのような外見のゲヘナは面倒くさそうにため息をつく。


「グラウくん、ソレが君のお仕事なんだから、真面目にやってくれないと困るよ」


 牛型のゲヘナをグラウと呼んだ、そのゲヘナの姿は人間そのものだった。


「あと、どのくらいかかるんです? レギン殿」


「さっきようやく開封の作業が始まったばかりだ」


 奥から二足歩行する馬型のゲヘナが現れ、状況を告げる。


「ニギド、おまえには聞いていない」


 グラウは一瞥もくれずに言い放つ。


「お前ら、これはお前らがやったのか!!」


 リリカ達と同じタイミングで到着した若者が大声をあげる。


「違う、お前らではなく、このグラウが1人でやった。俺や、ましてやレギン様が手を下す価値があるとでも思っているのか? この痴れ者め」


「お前ら、人間を甘く見るなよ!」


 若者はそう言って、両刃の剣を出現させると、人間では出せない早さでゲヘナ達に向かっていく。


 それを見てグラウは中空から巨大な戦斧を出現させると、一振する。


「頭が高い」


 言い放ったグラウの目の前には、腰から上が消し飛んださっきの若者が有った。


 その一部始終をモニター越しに見ていたスサノオが口を開く。


「間違いありません、牛型と馬型は超級、人間型は準神級です」


「勝てますか?」


 指揮官らしき男がスサノオに尋ねる。


「できる限り奴らの体力を削り、情報を引き出してください。その上で最後は私がやります」


 スサノオと呼ばれた女性は冷徹な回答を示す。




「なんだ? 口先ばかりか、この臆病者どもめ」


「挑発に乗っちゃ駄目よ。向こうに攻めさせて、数の有利を最大限にいかすの!」


 弓型の神器を持つ女性が指示を出すと、近くにいたもの達が頷く。


「よい案だ。雲泥の実力差が無ければな」


 いつの間にか女性の背後に立っていたニギドが言い放つ。


 と、同時に彼の周囲に居た者達の首や胴が切断され、ボロボロと落ちていく。


 祝福持ちはその祝福の強さからAからE、さらに上のSからSSSにランク付けされている。


 S以上のランクの者は神器を用いた戦闘の訓練が義務づけられており、日常の合間にそれを行っている。


 しかしその努力も才能も、この強敵達の前になす術なく蹂躙されていた。


「この、あんたなんかの好きにさせるもんですか!」


 バスターソードを両手持ちで構えるリリカを鼻で笑うニギド。


 その両手には、フラフープほどの大きさのチャクラムが握られていた。


「面白い」


 その言葉を聞いた時には、すでにチャクラムが首にかけられていた。


 輪の内側に刃の付いたチャクラムは、まるで処刑道具のように見えた。


「リリカ?!」


 母の絶叫が響くなか、チャクラムの刃が娘の首に触れることはなかった。


「なんだと?!」


 リリカを処刑せんとしていた右腕を切断され、顔面に蹴りまで見舞われるニギド。


 彼の前には狼から借りたフルフェイスを被った慧士が仁王立ちで立ちはだかった。


「おまえ、今なにしようとした」


 普段からは想像もつかない、静かに言葉を紡ぐ慧士。


 バイクをとめ、その光景を見て楽しそうに笑う狼。


「ほう」


「ほう、じゃないんですけど」


 ニギドと慧士のやり取りを見て興味を持ったグラウ。


 しかしその背後で真澄がバカにした調子で話しかける。


「いつの間に……」


 グラウが振り向いた時、真澄はその背後に立っていた。


「なっ?!」


 それがグラウの断末魔となった。


 縦に避けて。崩れ落ちる牛型のゲヘナ。


「グラウ?!」


「他人を気にしてる場合か」


 残る左手を切り落とすと、次は逃げられないように両足、そして最後に首をはねる慧士。


 自分がいつになく冷静であることに気づく。


「久しぶりだな、レギン」


「智也……」


 人間型のゲヘナに話しかける人物を見て、慧士は呟く。


「おまえが一番遊べそうだな」


  レギンを見てニヤリと笑う狼。


「ソイツは俺の獲物だ、邪魔するな!」


「知らねぇな。何事も早い者勝ちだ」


「あれ~、僕の事知ってる? 誰だっけ、思い出せないなぁ」


 言い争う智也に茶々を入れるレギン。


「地獄でゆっくり思い出せ」


 智也は殺意と共に言い放つ。

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