第3話
「ただいま」
気の抜けた声で帰宅の挨拶をする慧士。
時間はすでに夕方の5時をまわっていた。
「お兄?!」
「慧士くん!!」
リリカと母が同時に出迎える。
「さてと、うまく言い訳しないと……」
小声で自分に言い聞かせると、母達の方に向き直る。
「俺はおまえとは戦わない」
ファルシオンの切っ先を向けられてなお、戦闘を拒否する慧士。
すでに2時間以上、狼をアナザー内にとどめている慧士。
戦うでもなく、必死にこの場にとどめようとする彼を見て、段々とバカらしくなってくる狼。
「拍子抜けだ」
そう言って慧士に背を向ける。
「おっ、おい!」
「帰るんだよ、朝飯がまだなんだ」
アナザーに穴を空け…そこから外に出る狼。
後を追うと、先程の現場から離れた場所に出た。
「本当に大人しく帰るのか?」
気になって後をつけようとした瞬間、景色が変わる。
「これは……。アナザー?! 誰だ? いったい……」
「宗方狼に喧嘩売るなんて、よっぽど頭が悪いんだね」
声のする方を見ると、ロングソードを持った少年が1人、こちらに向かって歩いてくる。
「おまえもゲヘナ使い……」
「見ればわかるでしょ。本当に頭悪いね」
「いちいち、イラッとする物言いだな」
少年は鼻で笑うと、斬りかかってくる。
「くそっ!」
咄嗟に書から日本刀を取りだし、攻撃を受ける。
と、同時に少年の腹部を蹴り、距離を取る。
「足癖悪いね」
「大きなお世話だ。じゃなくって、いったいなんのつもりだ!」
「決まってるじゃん。弱いゲヘナ使いは間引かないと、後々自分が困るんだから」
「弱いって……」
「ゲヘナ使いはゲヘナを倒すと、書がそれを捕食してパワーアップする。書がパワーアップすると、所有者もその恩恵を受ける。ここまではわかってるよね?」
これは最初にツクヨミに教えられたことで当然、慧士も理解していた。
「そしてゲヘナよりもゲヘナ使いを捕食させた方が、書のパワーアップ大きい」
これも理解していた。
そのために智也は、ゲヘナ使いである自分を倒そうとした事も理解していた。
「そしてこれは、ゲヘナの側にも当てはまるのさ」
「なっ?!」
「わかったろ? 弱いゲヘナ使いを生かしておくことは、それだけでリスクなのさ。だから間引きが必要になる」
そう言うと、少年のロングソードにゲヘナの、黒いオーラ
「当然、このくらいはできるよね?」
「バカにすんな!」
負けじとオーラを纏わせる慧士。
今思えば、狼はこの黒いオーラを全く使わなかった。
本気ではなかったのだろうが、それでも十分、ヤバイ奴なのはわかった。
「ふ~ん、まぁまぁだね」
「いちいち腹の立つ言い方だな。友達とかいないだろ、おまえ!」
「いたさ、世界がこんな風になる前はね」
慧士はその言葉にピンとくる。
ゲヘナの書を持っていると言うことは、こいつも祝福されない人間ということ。
そんな『祝れなき者』を無能、役立たずと言う者達は確かにいる。
「変な勘ぐり、やめてくれない? こっちから縁を切ってやったんだからさぁ」
少年の雰囲気が変わり、より多くのオーラが彼の武器に集まり…飽和状態ににる。
「おまえ、本気でやるつもりか?!」
「じゃなきゃあんたの実力、わかんないでしょ?」
ゲヘナの書が出現させる武器、
それの許容限界までオーラを注ぎ込む事で起こる現象、『バースト』。
いわばゲヘナ使いの必殺技だ。
「こいつ、狼よりよっぽどヤバイじゃないか!」
自分を守るため、慧士もバースト体勢に入る。
結果は相討ち。
少年は
『ゲヘナの書の材料はおそらくゲヘナ。アイツらは殺した人間や同族の力を吸収して強くなる。ゲヘナが人間を襲うのもたぶん、それが理由なんだろうね』
真澄が去り際に残した言葉。
「つまり、人間を殺しても強くなれるって事なのか……」
そんな事を考えていて、この時間になってしまった。
「なに、これ……」
リリカの声で我にかえる慧士。
何事かと彼女の方を見ると、どうやらテレビの映像に対するリアクションらしい。
つられてテレビ画面に目をやると、そこに映し出されたモノに、唖然とする。
上空から映されたビル街。
おそらくはその中のビルの一棟が巨大な繭のようなモノに包まれているのだ。
「巣……、ゲヘナの巣が
その時、母のスマホが鳴る。
「はい、はい、見ました……。はい、はい……。わかりました」
そう言ってスマホを切り、リリカに真剣な表情を向ける。
「国からの出動要請があったわ。アレは今まで出現したどのゲヘナよりも危険な存在らしいの」
高ランクの祝福持ちとして登録されている母とリリカ。
有事の時には国から出動要請が出ることになっている2人に、今テレビに映っている繭の討伐が命じられたのだった。
「母さん、リリカ!」
「きちんと戸締まりするのよ。もし、避難指示ぎ出たらそれにしたがって」
「大丈夫、あたし達が負けるわけないでしょ!」
慧士の身を案じる母と、強気な様に振る舞うリリカ。
2人ともアレが別格の存在だと感じ取っているのだろう。
程なくして迎えの車が到着し、2人は戦場に向かった。
「よう、乗るか?」
2人を見送った慧士の背後から声がする。
「あぁ?! おまえ!!」
そこにはパイクに乗った宗方狼の姿があった。
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