第2話

 笹塚 智也ササヅカ トモヤ、17歳。


 半年前まではただの祝れざるモノだった彼だが、姉を強力なゲヘナに殺され、敵をとるためにゲヘナの書と契約した。


 書の契約者はゲヘナを倒すほど、その力を吸収して強くなれる。


 智也ふ姉の敵をとるため、ゲヘナ狩りに異常な執着をもっているのだろう。


 委員長が彼について教えてくれた事が、慧士の頭から離れなかった。


「もし、リリカや母さんがゲヘナに殺されたら……」


 そう考えると彼の言動が理解できてしまう。


 時間は朝、登校中にそんの事を考えていると、


「てぇい!」


 という掛け声と共に、背中に衝撃を受ける。


「なっ?! また、おまえか!!」


 よろけながらも持ち直し振り返りながら犯人をにらみつける。


 見ればそれは、小学校低学年くらいの少女。


 赤いランドセルを背負った小さな襲撃者はにらみ返しながら叫ぶ。


「貴方こそ、とっとと書をよこしなさい! アレは人間が持っていいものじゃないのよ!!」


「黙れ、ロリ」


「ロリっていうなぁ!!」


 少女のボリュームがさらに上がる。


 この少女、アマテラスと名乗り、妹であるツクヨミの暴挙を止めるため、ゲヘナの書を回収しているのだという。


「いい? その本は貴方を不幸にするものよ。人間の手には余る……。いえ、神々ですらきっと持て余す代物なの。わかったらよこしなさい!」


 ピョンピョンと跳ねながら説明するロリアマテラス


「悪いが俺は手放す気なんて無いぞ。これが無かったらゲヘナと戦えない。誰も守れない……」


「貴方が守れなくても私たち、神々が……」


「ゲヘナに負けた連中がなに言ってるんだ」


 慧士の言葉に辛そうな表情で返す自称アマテラス。


 そんなやり取りをしている彼らの横を通りすぎていく、学生風の男。


 彼はスマホでネット番組を見ていたようで、その音声が聞き取れた。


『では、スサノオさんに今後のゲヘナ対策についてうかがいたいと思います』


 スサノオというワードに、アマテラスの表情はさらに険しくなる。


 このスサノオと名乗る女性、テレビなどでもよく見るのだが、スーツ姿の美しい大人の女性で、とてもアマテラスやツクヨミの妹とは思えない姿をしている。


 アマテラスと名乗る少女の話だと、元々はスサノオと同じような大人の女性の姿だったらしいが、ゲヘナとの攻防戦で大ダメージを受け、この様な姿になってしまったらしい。


「しかし見れば見るほどチンチクリンだな……?!」


 慧士のチンチクリンという言葉に反応した自称アマテラスは、恐ろしい形相で彼に飛びかかると、肩車するように乗っかり、両こめかみに拳を当ててグリグリし始める。


「あだだだだっ!」


「ちょっと、なにやってるのよ? お兄!」


 遅れて家を出たリリカが声をかけてくる。


「見ればわかるだろ? カツアゲにあっているんだよ!」


「誰がカツアゲだぁ!」


「カツアゲは行動であって名前じゃないよ」


 アマテラスの言葉を真面目に訂正するリリカ。


「どうでもいいから、こいつを引き離してくれ!」


 わかった、と言って少女を引き離そうとするリリカ。


「ふぬぅ! 離すかぁ!!」


 そう言って少女は、両脚を慧士の首に回してロックする。


「ちょ…ちょっとぉ、女の子がそんな格好しちゃ……」


「うるさい、絶対に離さないぞ!」


「あ、ヤバイ。人が集まってきた……」


「いえ、これは……」


 てっきりこの珍事に人が集まってきたのかと思った慧士だったが、どうも違うようだ。


『ゲヘナ同士が戦っているぞ!』


 その言葉に慧士は反応する。


(まさかゲヘナ使い?)


 


「お兄、危ないってばぁ!」


「いや、ゲヘナ同士が戦うって、見てみたいだろ?」


 リリカが自分の事を気遣ってくれているのは分かっているのだが、それが自分の同類なのか、どうしても確かめておきたかった。


 そして慧士が見た光景は、予想どうりゲヘナの書を持った男がゲヘナを斬り伏せていた。


 それも1体や2体ではない。


 すでに10を越えるゲヘナが地面に倒れており、まだ同じくらいの数のゲヘナが男を取り囲んでいた。


「なに…あの人? ゲヘナと同じ気配がする……」


 困惑するリリカ。


 そして慧士は男に見覚えがあった。


「アイツ……。宗方 狼ムナカタ ロウ


 昨晩、ツクヨミからこの男について聞かされていた慧士。


『生身で祝福持ち数人をノシていた男で、今はゲヘナ使いよ』


(祝福持ちをゲヘナの書、無しで倒した男……)


 囲んでいたゲヘナを全て倒した狼を、今度は警官隊が包囲する。


「なんだ? こんどはおまえ達が遊んでくれるのか?」


 警官隊を見て不適に笑みを浮かべる狼。


「あいつまさか……」


 宗方狼、彼にとってゲヘナも人間も等しく狩りの対象だと理解した慧士。


「ここにいるのはまずい。リリカ、いくぞ」


「そんなわけにはいかないでしょ! 警官隊と戦っているっていう事はゲヘナで間違いないんだから!!」


 慧士の手を振りほどいて、狼の方に向かおうとするリリカの髪の毛を、慧士の肩に乗っかったアマテラスが掴む。


 ぐあっ、と悲鳴を上げて振り返るリリカ。


「ちょっと、なにすんのよ!」


「慧士の言うとおり、あの男はヤバイ。すぐにここから離れるべきだ」


 少女を叱るリリカだったが、逆に威圧される。


 祝福持ちがその力を具現化させた武器『神器』。


 これが発現している間は、力場が形成され、身体能力の強化と力場による防御力を得られるが、狼が手持ちの武器、ファルシオンを振るうと、神器持ちの警官達は意図も容易く斬り捨てられる。


「あいつ……。リリカを頼む」


 肩に乗っていたアマテラスをリリカの背中に乗っけて、狼の方に走り出す慧士。


「アナザー」


 ゲヘナ使いが使える共通の能力、『アナザー』。


 亜空間にゲヘナを引きずり込むことで、戦闘の被害を押さえると言うものなのだが、ここでは自身の正体を隠すために使う。


「なんだぁ、ご同輩どうはいか?」


 2人っきりの亜空間で話しかけてくる狼。


「なに考えてるんだ、おまえ! 俺たちの敵はゲヘナだろうが!」


「おまえの敵なんぞ知らん。俺に降りかかる火の粉は全部、俺の敵だ」


「おまえ……」


「気に入らないなら力ずくでこいよ。それができないなら引っ込んでろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る