第2話
半年前まではただの祝れざるモノだった彼だが、姉を強力なゲヘナに殺され、敵をとるためにゲヘナの書と契約した。
書の契約者はゲヘナを倒すほど、その力を吸収して強くなれる。
智也ふ姉の敵をとるため、ゲヘナ狩りに異常な執着をもっているのだろう。
委員長が彼について教えてくれた事が、慧士の頭から離れなかった。
「もし、リリカや母さんがゲヘナに殺されたら……」
そう考えると彼の言動が理解できてしまう。
時間は朝、登校中にそんの事を考えていると、
「てぇい!」
という掛け声と共に、背中に衝撃を受ける。
「なっ?! また、おまえか!!」
よろけながらも持ち直し振り返りながら犯人をにらみつける。
見ればそれは、小学校低学年くらいの少女。
赤いランドセルを背負った小さな襲撃者はにらみ返しながら叫ぶ。
「貴方こそ、とっとと書をよこしなさい! アレは人間が持っていいものじゃないのよ!!」
「黙れ、ロリ」
「ロリっていうなぁ!!」
少女のボリュームがさらに上がる。
この少女、アマテラスと名乗り、妹であるツクヨミの暴挙を止めるため、ゲヘナの書を回収しているのだという。
「いい? その本は貴方を不幸にするものよ。人間の手には余る……。いえ、神々ですらきっと持て余す代物なの。わかったらよこしなさい!」
ピョンピョンと跳ねながら説明する
「悪いが俺は手放す気なんて無いぞ。これが無かったらゲヘナと戦えない。誰も守れない……」
「貴方が守れなくても私たち、神々が……」
「ゲヘナに負けた連中がなに言ってるんだ」
慧士の言葉に辛そうな表情で返す自称アマテラス。
そんなやり取りをしている彼らの横を通りすぎていく、学生風の男。
彼はスマホでネット番組を見ていたようで、その音声が聞き取れた。
『では、スサノオさんに今後のゲヘナ対策について
スサノオというワードに、アマテラスの表情はさらに険しくなる。
このスサノオと名乗る女性、テレビなどでもよく見るのだが、スーツ姿の美しい大人の女性で、とてもアマテラスやツクヨミの妹とは思えない姿をしている。
アマテラスと名乗る少女の話だと、元々はスサノオと同じような大人の女性の姿だったらしいが、ゲヘナとの攻防戦で大ダメージを受け、この様な姿になってしまったらしい。
「しかし見れば見るほどチンチクリンだな……?!」
慧士のチンチクリンという言葉に反応した自称アマテラスは、恐ろしい形相で彼に飛びかかると、肩車するように乗っかり、両こめかみに拳を当ててグリグリし始める。
「あだだだだっ!」
「ちょっと、なにやってるのよ? お兄!」
遅れて家を出たリリカが声をかけてくる。
「見ればわかるだろ? カツアゲにあっているんだよ!」
「誰がカツアゲだぁ!」
「カツアゲは行動であって名前じゃないよ」
アマテラスの言葉を真面目に訂正するリリカ。
「どうでもいいから、こいつを引き離してくれ!」
わかった、と言って少女を引き離そうとするリリカ。
「ふぬぅ! 離すかぁ!!」
そう言って少女は、両脚を慧士の首に回してロックする。
「ちょ…ちょっとぉ、女の子がそんな格好しちゃ……」
「うるさい、絶対に離さないぞ!」
「あ、ヤバイ。人が集まってきた……」
「いえ、これは……」
てっきりこの珍事に人が集まってきたのかと思った慧士だったが、どうも違うようだ。
『ゲヘナ同士が戦っているぞ!』
その言葉に慧士は反応する。
(まさかゲヘナ使い?)
「お兄、危ないってばぁ!」
「いや、ゲヘナ同士が戦うって、見てみたいだろ?」
リリカが自分の事を気遣ってくれているのは分かっているのだが、それが自分の同類なのか、どうしても確かめておきたかった。
そして慧士が見た光景は、予想どうりゲヘナの書を持った男がゲヘナを斬り伏せていた。
それも1体や2体ではない。
すでに10を越えるゲヘナが地面に倒れており、まだ同じくらいの数のゲヘナが男を取り囲んでいた。
「なに…あの人? ゲヘナと同じ気配がする……」
困惑するリリカ。
そして慧士は男に見覚えがあった。
「アイツ……。
昨晩、ツクヨミからこの男について聞かされていた慧士。
『生身で祝福持ち数人をノシていた男で、今はゲヘナ使いよ』
(祝福持ちをゲヘナの書、無しで倒した男……)
囲んでいたゲヘナを全て倒した狼を、今度は警官隊が包囲する。
「なんだ? こんどはおまえ達が遊んでくれるのか?」
警官隊を見て不適に笑みを浮かべる狼。
「あいつまさか……」
宗方狼、彼にとってゲヘナも人間も等しく狩りの対象だと理解した慧士。
「ここにいるのはまずい。リリカ、いくぞ」
「そんなわけにはいかないでしょ! 警官隊と戦っているっていう事はゲヘナで間違いないんだから!!」
慧士の手を振りほどいて、狼の方に向かおうとするリリカの髪の毛を、慧士の肩に乗っかったアマテラスが掴む。
ぐあっ、と悲鳴を上げて振り返るリリカ。
「ちょっと、なにすんのよ!」
「慧士の言うとおり、あの男はヤバイ。すぐにここから離れるべきだ」
少女を叱るリリカだったが、逆に威圧される。
祝福持ちがその力を具現化させた武器『神器』。
これが発現している間は、力場が形成され、身体能力の強化と力場による防御力を得られるが、狼が手持ちの武器、ファルシオンを振るうと、神器持ちの警官達は意図も容易く斬り捨てられる。
「あいつ……。リリカを頼む」
肩に乗っていたアマテラスをリリカの背中に乗っけて、狼の方に走り出す慧士。
「アナザー」
ゲヘナ使いが使える共通の能力、『アナザー』。
亜空間にゲヘナを引きずり込むことで、戦闘の被害を押さえると言うものなのだが、ここでは自身の正体を隠すために使う。
「なんだぁ、ご
2人っきりの亜空間で話しかけてくる狼。
「なに考えてるんだ、おまえ! 俺たちの敵はゲヘナだろうが!」
「おまえの敵なんぞ知らん。俺に降りかかる火の粉は全部、俺の敵だ」
「おまえ……」
「気に入らないなら力ずくでこいよ。それができないなら引っ込んでろ」
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