祝れなき者

@suzukichi444

第1話

 この世界の生きとし生けるもの全て、祝福を受けて産まれてくる。


 世界が平穏な時は運が良い、悪い程度の影響しかないが、そうではなくなった時に『祝福』は世界を守る力として発現する。


 202X年、『ゲヘナ』と呼ばれる怪物が地上に現れるようになる。


 と、同時期に祝福の力でその怪物と戦うもの達が出現する。




「お兄、下がって!」


 紺色のブレザーを着た少女が、同じ制服を着た男子生徒を後方に突き飛ばす。


 少女の目の前には、二足歩行する犬のような獣人が立ちはだかる。


 少女は何かを握るように手をグーにすると、そこに光の剣が出現する。


「いくわよ」


 そう言って怪物に斬りかかる少女。


「あいててて……。こんなに勢いよく、突き飛ばさなくてもいいだろうに……」


 突き飛ばされた男子生徒が、文句を言いながら起き上がる。


「大丈夫?! 慧士エイジくん!」


 そう言って男子生徒こと、泉塚 慧士イズミヅカ エイジに駆け寄る、30代後半くらいの女性。


 慧士の義理の母親、泉塚 流美イズミヅカ ルミ


 彼女も何かを察し、手から光の槍を出す。




 ゲヘナが出現するようになって1年、大半の人間が祝福と呼ばれる力を操り、怪物に立ち向かうようになっていた。


 特に慧士の義理の妹、リリカは強い祝福を持っているため、16歳にして将来、対ゲヘナ特別部隊への入隊が決まっていた。




「ふう、終わった。お兄、大丈夫?」


「あんだけ勢いよく突き飛ばしておいて、大丈夫なわけないだろ!」


「なによ、お兄がノコノコ出てくるからそうするしかなかったんじゃない!」


 リリカの言葉に思わず言い返すが、予想道理の反撃がくる。


「はいはい、喧嘩はそこまで。みんな無事だったんだから、仲良くしなさい」


 そう言って流美は慧士とリリカを抱き締める。


 この世界に産まれた者は祝福されるが、それは全てではない。


 ごく稀に祝福されなかった者がいる。


 この泉塚慧士のように。


 彼はこの1年、祝れざるモノと陰口をたたかれながら生きてきたのだった。




 その夜、慧士はこっそりと家を出て、昼間ゲヘナと遭遇した場所に来ていた。


「リリカと母さんがあれだけ倒したのに、まだゲヘナの気配がする……」


 そう呟きながら意識を集中させる慧士。


「祝福も無い雑魚の癖に、勘だけは良いな」


 なにもないはずの空間から声がする。


 そちらに目をやると、巨漢の豚の獣人が姿をあらわす。


「やっぱり巣があったか」


「ぐふふっ、知ったが最期……?!」


 なにかを言いかけた、豚の首が落ちる。


 見れば慧士の右手に黒い日本刀が、左手には黒い表紙の分厚い本が握られていた。


「おいテメェ、なに人の獲物横取りしてんだ!」


 突然、背後から怒鳴り声が聞こえてくる。


 なんだ、と思い振り返ると、そこには慧士と同じ黒い本とサーベルを持った、同じくらいの年の少年が立っていた。


「おまえもゲヘナ使いか。なら倒して俺の力にしてやる!」


 見知らぬ少年はサーベルで斬りかかってくる。


「なっ?!」


 少年の初撃を刀で受けると、バックジャンプで距離をとる慧士。


「なにすんだ、いきなり!」


「うるせぇ、大人おとなしく狩られろ!」


 そう言って黒い本からもう一振のサーベルを取りだし、本は投げ捨てる。


「こいつ!」


 少年の攻撃を右に回り込み回避するが、右手に持ったサーベルを振って追撃してくる。


 それもしのいで距離をとろうとする慧士だったが、少年は片方のサーベルを投げ、それを追いかけるように追撃してくる。


 いい加減、話をする気も聞く気もない少年に苛立ちを覚えた慧士は、避けずに迎え撃つという選択をする。


「いい加減にしろ!」


「テメェがな!!」


 同時に剣を振るう慧士と少年。


 しかし。2人の間に現れた何者かによって、それは止められる。


「夜も遅いのに、よくやるわね。あなた達」


 それはショートヘアの眼鏡をかけた少女。


「ツクヨミ……」


 少年がポツリと漏らすのと同時に、慧士も少女のなを呼ぶ。


「委員長……」


「誰が委員長よ!」


 クールな少女の形相が変わる。


「委員長?」


 呆気にとられた少年が復唱する。


「だから違います!」


 キッ、と少年を睨み付ける委員長。


「その、眼鏡をかけていれば委員長っていう感覚、どうにかならないのかしら!」


「いや、眼鏡、ショートヘア、前髪パッツンの三種の神器が揃っているから……」




 慧士が委員長ツクヨミと出会ったのは半年ほど前。


 ゲヘナに襲われていた彼を助け、彼女はこう言った。


「この『ゲヘナの書』と契約すれば、祝福の無い貴方でも戦えます。でもそれは、貴方がゲヘナに近い存在になるということ。もし、人々に知れれば、貴方はゲヘナとして追われる事になるでしょう」


 だが慧士は迷わずゲヘナの書と契約した。


 たとえ人間に追われる最期を迎えたとしても、妹や母に守られるだけの自分が嫌だったから。


 そして委員長ツクヨミは、なぜ世界がこうなってしまったのかを説明してくれた。


「ゲヘナの侵攻を受けたとき、この世界の神々が迎撃に出たわ。結果は敗北。ゲヘナの先発隊はこの世界に侵入し、本隊を受け入れる準備をしているの。『巣』と呼ばれるアイツらのテリトリーを作り、そこからこの世界の外にいるゲヘナ達を呼び込む。『巣』はやつらの拠点であると同時に世界の外とを繋ぐ、ゲートでもあるのよ」




「ちっ!」


 少年、笹塚 智也ササヅカ トモヤがサーベルを振るうと、巣と呼ばれた亜空間が両断され、消滅していく。


「今日は委員長ツクヨミに免じてこれで勘弁してやるぜ」


 そう言って矛を納める。

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