第2話 祝いと炎上の編集部 🎭💥

 やれやれだ。本当にとんでもない部署に放り込まれたらしい。

 いや、それよりも――編集長のあの言葉が頭の中でエコーしていた。


『受賞取り消しを祝う』


 何度考えても意味不明だ。

 机の端に置かれた赤ペンを見つめながら、俺は心の中で毒づく。


 ――これ、ブラックジョークじゃなくてガチなのか?


 編集部は静かだが、どこか異様な空気が漂っている。

 LED照明の白光が無機質に反射し、デュアルモニターには「炎上対策マニュアル」。

 その横で、編集長は冷めかけたカフェラテを啜りながら、淡々と語った。


「炎上はビジネスになる。取り消し祝いは、作家にとって“再出発の儀式”だ」


 ――いや、それ、ただの皮肉だろ。


 たしかに、刺激的な見出しほど「いいね」やリポストは稼げる。

 だからメディアは謝罪を避けつつ、炎上を“ちょっとだけ”誘発する。

 真実の情報は拡散力が弱く、炎上コンテンツの前では影が薄い。

 訂正報道なんて、誰も読まない。


 ――大事になる前に止めた方がいいんじゃないの、これ。


「でも、生成AIを使って面白い作品ができれば、それで良いんじゃないっすか?」


 俺がそう言った瞬間、AI禁止郎が一歩前に出た。

 黒いロングコートが揺れ、肩の金刺繍がギラリ。

 声は低く、重く、そして無駄に芝居がかっている。


「AIの文句は俺に言え」


「いや、それはもう聞いたっす」


 俺のツッコミを完全に無視し、禁止郎は拳を突き上げた。


「創作の真の価値と信頼性を守るための措置だ――あたぁっ!」


 ――いや、なんで虚空を殴るんだよ。


「AI生成禁止――創作者の明示性の確保!」


 技名みたいな叫びに合わせて、編集長が補足を入れる。


「読者は“誰が書いたか”を前提に作品を楽しむ。生成AIでは作者が不明確になり、読者の信頼が損なわれる可能性があるのだ」


 ――いや、一般読者はそこまで気にしないと思うけど。

 ――「無料だから」「暇つぶしだから」くらいの感覚じゃない?


 それに、ヒット作の次回作が微妙なんてよくある話だ。

 興味を持つのは熱心なファンだけ。

 俺は心の中でツッコミながら、現実を受け止めるしかなかった。


 ――世の中は娯楽コンテンツで溢れてるんだよ。


 誰も突っ込まないので、そろそろ声を上げようとした時だった。

 廊下が騒がしい。

 気づけば、他の編集者たちの姿が消えていた。


「来たか」


 編集長が悪役みたいな声で言う。


「来たって、何がっすか?」


 俺の疑問に対し、編集長はゆっくりと口角を上げた。


「試しに、取り消してみたのだよ。受賞を――」


 そして、さらりと続ける。


「お祝いのメールも送っておいた」


 完全に悪役の顔だ。


 ――何言ってんの、この人?

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