第3話
冷蔵庫から鶏もも肉を取り出し、パックを開ける。水気を切りまな板の上に置き、ぐにぐにと一口大に切っていく。
「油淋鶏、俺好きなんだ」
「じゃあ一丁、作ってみますか!こないだ買った包丁、まだ私試してないし」
社会人になって2年目の秋、同じ会社に勤める私たちは付き合いだした。私の家に彼のものはどんどん増えて、ほぼ同棲状態だった。平日はお互い忙しく、料理は週末だけ交代でしていた。
私はポリ袋を取り出し、切った鶏肉をぼとぼとと入れた。そこに酒、醤油、おろししょうが、おろしにんにく、ごま油を加える。鶏肉に調味料を揉み込み、20分弱置く。
お互い結婚するつもりでいたのに別れた理由は、価値観の相違、と言ってしまえばそうだ。
私は今の仕事を続けながら結婚して、子供を産んで、同じ仕事にまた復帰して…と自分なりの将来設計をしていた。一方彼は、まだまだ様々ことに挑戦したい、色んな場所に住んでみたい、と30手前にしては私から見れば冒険心が旺盛過ぎた。
「何でもいいから、ひとところで働いて欲しい。そうじゃなきゃ、私は不安。もしそれがすぐできないのなら、別れよう」
そう切り出したのは私だった。年齢に焦りを感じていた。もし、新しい相手を探すなら、もたもたしてはいられない。
「わかった……ちょっととりあえず、距離置こうか」
彼は私の部屋から手際よく私物を回収して、次の日に出て行った。私が使いそうなものは、残して。
そして、その次の日には結論を出した。彼は私の意見を尊重してくれた。私の望んでいた方ではない形で。私たちの四年間は終わりを迎えることになった。
別れることを決めた最後の電話の最後の言葉は、はっきり覚えてる。
「君の、優しい声が好きだったよ。……愛してる」
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