第2話 

そんなことを考えながら、いつも通り電車に乗り込んだ。朝のラッシュと節電で、車内は冷房が入っているかわからないほど暑い。朝から一日が終わったと思うほど疲れた気がする。


私の勤めるMEシステムは、主に大手企業のHPのデザインや、アプリの開発などを手掛けている会社だ。明るいオフィスは、各々一人一人のブースがあり、半個室のような感じで仕事ができる。


「おはよう、朱莉さん。あれ元気ないです?」

机にバッグを置いて、PCを開いていると声が聞こえて振り返った。

同じ部署の水野優希は、私の営業アシスタントをしてくれている一つ年下の後輩だ。付き合いも長いこともあり、デスクに着くや否や私の顔を見て問いかける。152㎝という小さな身長で、かわいらしい優希ちゃんだが、性格はサバサバとしていて裏表がない性格は付き合いやすい。


「おはよう、まあ。うん」


「その言い方、またあの彼氏何がなにかしたんですか? いい加減に別れた方がいいですってば」

なにもしないからとは言えず、適当に笑って見せる。レスにもなり会話もなくなったころから、優希ちゃんは別れた方がいいと言ってくれていた。


「まあ、ね。でもまだ可能性はあるかもしれないしね」


「可能性ってなんですか? あろうがなかろうが一緒にいても時間の無駄ですよ」

呆れたように言う優希ちゃんの言いたいことは百も承知だ。本当は自分でもわかっている。このまま付き合って万が一結婚したところで、本当にそれが幸せになれる確率なんて本当に低いだろう。でも……。

その一緒に住んでしまった今、お互い家を出るのも、新しい生活もするにもつき合う時よりパワーがいるのも事実だ。


「それより、資料できてる?」

ごまかすようにそう聞くと、優希ちゃんは「できてますけど……」とまだ言い足りないのか不満顔だ。


「おい」

そこに低い声がして、私は声の方へと顔を向けた。


「真木、なに?」

現れたのは、私の同期でありエンジニアの真木廉也。才能の塊と言われ、賞などもこの若さで取っている我社の稼ぎ頭だ。百八十㎝はあり、均整のとれたバランスの良い体形をしているが、仕事に神経を全部使っているのか、眼鏡にひげをはやし、足元はワンコインショップのサンダル。


「S社のこれ、なんだよ。納期を予定より二週間も早めるとか無理に決まってるだろ?」

バサっと企画書を私のデスクに置くと、真木は冷たい視線を向けた。

「そんなことわかってるから、頼んでるんでしょう?」

「は? いつお前に頼まれたよ」

「だから、今よ!」

私も負けじと言い返す。


「ストップ!!」

私たちの言い合いを、割り込むように優希ちゃんが手で、真木と私の物理的な距離を広げる。


「ふたりともやめてください!」

後輩の怒りに満ちた声に、私と真木は睨み合っていた視線を逸らすとお互いこれ見よがしにため息を吐く。


「一週間だ。それ以上は無理」

「わかった」

私だって無理を言っているのはわかっているが、こっちだって仕事なのだ。

すぐに戻って行く真木の背中を睨みつける。


「本当に朱莉さんと真木さんていつも喧嘩してますよね」

置いて行った真木の資料を手に取りつつ、優希ちゃんはぼやくようにそう言う。

「まあね、昔から」


同期で入社したてのころは、それほど接点はなかった。飲み会に行っても、真木はどちらかというと理系で固まり、いつも仕事の話をしていたし、私は営業の人たちと固まっていた。しかし、真木がすぐに仕事で頭角を現しだし、エンジニアの中でも中心人物になってからはこんな関係だ。


「ふーん、真木さんて人気あるのに」


「え? 真木が人気あるの? 確かに仕事はできるけど」


「ありますよ。かなり」


かなり??


「あの服装にで、自分にも他人にも興味がない真木が女の子から人気があるの?」


意外すぎて目を丸くして優希ちゃんに尋ねると、彼女は信じられないような表情を浮かべた。


「本当に朱莉さん、彼氏しか見てなかったんですね。真木さん、いつもはあんなんですけど、めちゃくちゃ有望株じゃないですか。エリートだし、身長も高いし、めっちゃイケメンだし。優しいし」


「イケメン……なの? それに優しい?」


信じられない言葉を聞いた気がして、支離滅裂に問うと、優希ちゃんは呆れたように私を見た。


「顔は好みがあるかもしれないですけど、真木さん優しいですよ。朱莉さんはもう少し他の男にも興味持った方がいいですよ! 仕事しますね」


そう言い捨てると、優希ちゃんは自分のデスクへと戻って行った。


あの真木が? 


イケメンかどうかと聞かれたら好みの問題だろうから否定はしない。でも優しい? 優希ちゃんはどこを優しいといっているのだろうか。


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