第18話 春の予感 美月の場合


昼休み。

部活の後輩に用事があって、

たまたま一年の廊下を歩いていた。


見た。

蒼汰と、神林くん。

二人で、話している。


蒼汰が、笑っている。

本当に、笑っている。

心からの笑顔。


なんで今。

ここで。

ウソみたい。


私は、立ち止まった。


少し離れた場所から、見ている。


蒼汰が、神林くんの髪に触れた。

神林くんが、恥ずかしそうにしている。


二人とも、笑っている。


ああ、

良かった。


本当に、

良かった。


蒼汰が、また笑えるようになって。


誰かを、大切にできるようになって。


私は、

少し笑った。

それから、そっとその場を離れた。

二人の邪魔を、したくない。


教室に戻る。

窓から、校庭が見える。

木の枝に、小さな芽が見える。

春が、来ている。

新しい季節が。

蒼汰にも、春が来た。

神林くんと、一緒の春が。


「美月、どうしたの?」


友達が、声をかけてきた。


「ん、何でもない」


「あー良いことあったんだ、顔、笑ってるよ」


「そう?」


私は、頬に両手をあてて押し上げた。


嬉しかっただけ。


友達の幸せが、嬉しかっただけ。


「はっ、なにそれ、可愛いんだけど」


「えっ?やめてよー」


窓の外で、風が吹いている。

暖かい風。

春の風。

もうすぐ、春休み。

そして、新学期。

蒼汰は、三年生になる。

神林くんは、二年生。

校舎が、離れる。

会える時間も、減るかもしれない。


でも、大丈夫。

二人なら、きっと。


乗り越えられる。


私は、そう信じたいと思った。



(第十八話 了)

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