第17話 春の予感 翔の場合


昼休み。

教室で、弁当を食べていると。

廊下から、声がした。

「神林」

振り向く。

蒼汰先輩が、そこにいた。


心臓が、跳ねる。

「先輩」

僕は、立ち上がった。


廊下に出る。

先輩が、少し笑っている。


「昼、食べた?」


「今、食べてました」


「そっか」


先輩が、僕の髪に触れた。


「寝癖」


「え、あ」


恥ずかしい。

僕は、慌てて髪を直した。

先輩が、笑っている。


「可愛い」


その言葉に、顔が熱くなる。


「…先輩」


「ごめん」


先輩は、笑ったまま。

でも、その目が、優しい。

廊下を、他のクラスの生徒が通り過ぎる。


少し、こっちを見ている。

でも、気にならない。

蒼汰先輩が、ここにいるから。


「放課後、また図書室な」


「はい」


「待ってる」


「僕も」


先輩が、また笑った。

それから、自分の教室に戻っていった。


僕は、その背中を見送った。

嬉しくて、仕方なかった。

胸の奥が、温かい。


教室に戻ると、田中が言った。


「神林、今の二年の先輩?」


「……うん」


「仲いいんだ」


田中が、ニヤニヤしている。

僕は、何も答えなかった。

ただ、笑った。

仲いい。

それだけじゃない。

でも、まだ言えない。


言葉にするのが、恥ずかしい。

でも、嬉しい。

蒼汰先輩と、僕。

お互いを思い合ってると感じた。


気持ちが繋がってると感じた。

こんな気持ちになれるなんて、

信じられないほど、すごく幸せだ。


―――


僕は、夏の終わりに転校してきた。


図書室に入った時、僕は居場所を探してた。


先輩をはじめて見たのもそこだった。


一人で図書室にいて、

無表情で怖そうだった。でも、

僕と似ているのかもと思った。


いつも同じ席にいる先輩。

気になっていた。


その日は、どの席にも

ぽつぽつ人が座っていた。

先輩の向かい側

空いていた。


透明人間の僕は、躊躇せず、

そこに座る。


先輩は、僕を、見た。

「神林翔、くん、か、1年?」

僕の名札を見て、話かけてくれた。


僕を、見てくれた。


僕は、

先輩の顔に惹かれた。

無表情なのに、温かい眼差し。


そして、

そのまま、

先輩に会いたくて

構ってほしくて。


懐くように、

執着してしまった。


―――


最初から好きだった。

同性として、

先輩として。

好きが加速して、

蒼汰先輩で、心がいっぱいになって。


ああ。

もう、僕は、恋をしている。


そう本当の自分に気がついた時は、

先輩を見ることが

苦しみにかわった。


僕だけを見てほしい、

僕だけに、見せてほしいと。


先輩は、僕の気持ちに気づいているのか。

先輩も、同じ気持ちでいてくれてるのか。

だからこそ、

先輩の怖がる気持ちを

理解できた。


ただ、側にいてほしい、と、

祈るように、先輩を見つめていた。


わずかな、先輩の気持ちの変化…

微かな、希望。


だけど、先輩の態度が急に変わった。

不安だった。近くにいるのに、遠ざけてるのがわかった。だから、不安だった。

先輩から

もう前みたいに会えないと言われた時、

縋りつきたい気持ちを、こらえた。

待とうと思った。

先輩が、自分で答えを出すまで。

先輩が、戻ってくるまで。

信じようと思った。

僕が、蒼汰先輩の、一番の理解者でありたかったから。


だから、

先輩の気持ちを

言葉で

聞いた時は

全身から、力が抜けた。


立ってるのか。

浮いてるのか。


嬉しくて、嬉しすぎて。


涙が込み上げた。



(第十七話 了)








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