後編

 教会の扉が開き、純白の晴れ着に包まれた新郎新婦がゆっくりと歩み出てくる。

 参列者たちは、口々に「おめでとう!!」と叫び、ライスシャワーを浴びせる。

 そんな二人の姿を参列者たちの少し外側から、頬がやせこけ、目にクマができた男が眺めていた。

 男――は沈痛な表情で、今朝起こったことを振り返った。




 正志は当直の救急業務で一睡もできず、朝を迎えた。

 目にはクマができている。

 ここ最近、業務が激化しており、食事も十分に摂れておらず、頬もやせこけてきていた。


 救急の対応がようやく途切れ、医局に戻り、背伸びをしたところでその電話は鳴った。


「先生、佐伯さんが心停止です!!」


 正志は手にした電話を落としそうになった。


 嘘だろ……

 だって、今日は……


 正志は病室に走った。

 病室では病棟スタッフが集まり、必死に心臓マッサージを行っていた。


「気管挿官します!! 準備を!!」


 肺炎を合併した肺癌。

 それもほぼ終末期に近い。

 そんな状態での心肺停止。

 蘇生できる見込みはほぼゼロだった。

 だが……


 佐伯さん、いくな!!

 今日が娘の結婚式だろ!!

 結婚式に出るんだろ!!

 だから、いくな!!

 戻ってこい!!




 蘇生処置は数十分に渡って続けられた。

 人間の脳は10分間血流が停止すれば、回復はもはや見込めない。

 ゆえに蘇生処置は10分を目途に終了されることが多い。

 数十分に渡って蘇生処置を続けたのは、この病院内では異例であった。

 正志が終了を宣言せずに、処置を継続したためであった。

 おそらく、他のスタッフからは、主治医の悪あがきというふうにしか見えなかったであろう。


 悪あがきは悪あがきで終わった。

 喜久雄の心拍は再開することなく、正志は死亡確認を行った。


 確認を行ったあと、正志はふらふらとベッドサイドのパイプ椅子に腰を下ろした。


 なんで今日なんだよ……

 あと数時間で結婚式だったんだぞ……


 憤る正志の視界の端にあるものが飛び込んできた。

 ベッドサイドテーブルの上に白い手紙が置かれていた。

 あの招待状だ。

 正志は吸い寄せられるように招待状を手にした。


 おい……

 待て、俺……

 何、バカなことを考えてるんだ……


 自分の頭に浮かんだ考えを、必死に止めようとする。

 だが、正志の体は思考を通りこし、動き出していた。




 幸せそうに笑う新郎新婦の姿を遠目に見ながら、正志は自分に問いかける。


 お前は何をやってるんだ?

 亡くなった担当患者になりすまして、結婚式に出るなんて……


 もちろん長居すれば、じきに本物の父親でないことはバレる。

 さすがにそろそろ退散しなくてはならない。


 そう思いながらも、花嫁の笑顔から目が離せなかった。


 あの子の記憶の中だけでは……

 親父さんは結婚式に出たことになったのかな?


 正志は空を見上げた。


 佐伯さん……

 これで良かったか?


 正志の問いに返ってくる答えはない。

 だが、その日の空は、この婚礼を全力で祝うかのように晴れ渡っていた。




 ご出席 完

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 ご出席 阿々 亜 @self-actualization

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