第6話 500年ぶりの夜
ネグリジェ姿のまま、ガルーダとフェニックスと一緒に城の外にーー
わたしが外に出ると、城の職員と思われるものたちのどよめきと小さな叫び声、緊張した張り詰めた空気になる。
「あれはシームルグじゃないか!」
「そっくりだわ」
「ソラリクス様に復讐に来たのかしら」
「だから夜が復活したんだ」
「もう昼は来ないの??」
不安と怒りと恐怖がおり混ざる声。
今にも石でも投げられそうな雰囲気にわたしも恐怖に思わずフェニックスの服を握りしめる。
「こいつは、シームルグの空似ということで調査中だ。全てはソラリクス様が判断される。みんな余計な憶測を招くことはやめろ」
フェニックスがざわめく声に向けて淡々と伝える。
だが、わたしにとっては当たり前の夜の訪れは、ガルーダにとってもフェニックスにとっても恐怖なのだ。
時折り流れる流れ星に、
「星が落ちたぞ」
と、恐怖の叫び声があがる。
フェニックスもガルーダもどうしようか迷っている顔だ。
城を出て見える空は、多くの星が瞬いている。
月は見えない。
「あれは流れ星だから心配いらない。」
そう言ってあげたいけど、そんなことを言ったらなんで知っていると言われそう。
余計なことは言わない方がいいのだろう。
街は元々昼がなかったためか、部屋に灯りを灯すとか、街に電灯をつけるという習慣もないらしく一斉に真っ暗になり、ところどころで火をつけているようだ。
それが、空に浮かぶ鬼火のようで余計に夜の不気味さを演出する。
どうしたらいいのかしら?
こんなに暗い夜はわたしも体験したことがない。
なんだかんだで、電気を止められても外に灯りがあるのとないのとはこんなに違うのか。
誰かの泣き声も聞こえ、ますます不安になる気持ちでいっぱいだったが
「おや、久しぶりに夜が来たねえ」
澄んだ弾んだ場に似つかわない楽しそうな声が弾んだ。
「せっかくの夜だけど、ちょっと混乱があるようだね」
ピカッと光る光球が空に数個花火のように立ち上っていく。
「せっかくだから私としては久しぶりの夜を楽しみたいが、残念ながら予告がないから混乱も激しいようだ」
指を空に向けてちょいちょいと動かしているのはーー
「ソラリクス様!!」
夜に怯えるものたちが一斉に声を上げる。
その瞬間、そこにあった冷え切った恐怖や声が歓声に変わり、これでもう大丈夫という圧倒的な周囲の信頼感に変わる。
星が、光の明るさに飲み込まれ、太陽が隠れて冷たくなった空気から、少し温かみが増すような感覚に戻る。
一人たのしそうに空を見上げている金髪、金眼に白い服を着て、暖かい風をたなびかせるのは、あの美術館のような場所にあった絵画の中心にいた人物だった。
「さて、シームルグが戻ってきたという連絡を受けて驚いてきたんだけど、彼女はどこにいるんだい?」
ソラリクスは、まるで私が見えていないようにガルーダとフェニックスに問いかける。
「え、ええと。本人はシームルグのそっくりさんだというのですが」
ガルーダとフェニックスの間に突然立たされる私。
それと同時に周りの怒りに近い圧と声がで始める。
「シームルグだ!」
「こいつが昼を夜に変えたのか」
「おそろしい!500年前にやらかして、まだソラリクス様を諦めてないのか」
罵声に近い声が聞こえて、泣きたくなるし、気を失いそうになる。
今夜はゆっくり休めるんじゃなかったの?
わたし、何したっていうの!!
「わ、わたし...わたし」
「ん??」
キラッとソラリクスの顔が私に近づく。
「そ、ソラリクス様!あまりお近づきになりませんよう」
ガルーダが止まるが、手で振り払い再びじーっと私を見る。
「すまないが...似ても似つかないが...」
ソラリクスが首を傾げる。
「えっ!!!」
そう叫んだのは、ソラリクス以外の全ての人、いや思わず私も叫んでしまった。
「ええっ!なんでみんなシームルグと似てると思うの?」
ソラリクスが困ったように眉を顰めて私と同じように首を傾げる。
「え、あの、500年前を再現したアルコノスコが描いた絵のことかい?そういえば、あの絵の女性にそっくりだよね。でも、あの絵がそもそもシームルグと似ても似つかないからね」
ソラリクスはなんてこともないようにサラッと話す。
「僕は500年前にも、シームルグとあまりにも似てないって言ったよ。そもそも、そうでなくても、そこにいる女性とその絵のシームルグは似ているけど一緒じゃない。
見てごらん。この女性には目尻にほくろがある。泣きぼくろだな。かわいそうに、波乱が多い不幸な人生を歩みそうな顔をしている。更にはこのそばかす。絵にはそんなものはないだろう。」
「絵ですから美化して描いたのでは?」
「アルコノスコは、あったことをそのまま描けるから大画伯だったんだよ。でも、止めるのも聞かずに、シームルグ憎しとばかりに、彼女の顔を変えちゃったんだよね。」
ソラリクスは困っちゃうよねといいながら、軽いため息をついた。
「みんなもちょっと考えたらわかるだろう。私の恋人だった女性だよ。顔立ちが一人だけ違うのはおかしいと思わなかったかい?腐っても彼女は月光神だよ。わたしと対極にある美しい女性だった。
だが、アルコノスコは更に一晩であの絵を作ってそれを世に広めてしまったんだから止められなかったさ。わたしもその時にはショックが大きくて絵どころじゃなくてね。
この女性は、その平凡で変哲ない顔より更に酷いんだから、シームルグであるはずがない!」
にっこり美しい顔で、否定してたが...
ちょっと待て!平凡で変哲ない顔より更に酷いだと!
神にデリカシーはないのか!!
わたしは、容赦ないその神の戯れのような言葉と出来事に怒りを覚える。
泣きぼくろがあるだけで、波乱が多い不幸な人生だと...いや、否定はしないが、そばかすは肌の手入れをする暇すらなかったんだから仕方ないじゃん
シームルグ!あんた男の趣味が悪すぎるわ!!
だが、わたしの心の言葉とは裏腹に、周囲からは安心した声が上がる。
「確かに、あの絵は1人だけ不細工だと思ったんだよ」
「1人だけ不細工だから、大聖女様に嫉妬したんだと思ってたよ」
「ええ!あの絵は誤りだったのかい?」
「絵のシームルグに不幸にもあの子は似てしまったんだねえ」
ガルーダは、気まずそうに小さな声で
「飛鳥殿、すまない」
と囁く。
気の毒がられると余計になんとも言えないけど。
ここの住人、人を平凡だとか不細工だとか...好き放題言うわね。
あんたたち、さっきまで私をシームルグだと思い込んでたじゃん!!
そう思ったところで、フェニックスからソラリクスへ疑問の言葉が出る。
「シームルグは我々からしたら、ソラリクス様たちに刃を向けたとんでもないやつです。だから、つい、描きたくなった気持ちはわかります!」
ん??
フェニックスめ!今、不細工を否定しなかったな!
「ですが...絵のシームルグに似た彼女がきた日に500年ぶりに夜が訪れました。その理由を知らなければ民は不安になると思われます」
フェニックスはじっとソラリクスを見つめる。
ええと、フェニックス、これは守ってるの?煽ってるの?
ソラリクスは、ふふっと笑いながらフェニックスや周囲を見る。
「むしろ、シームルグの呪いが解けた記念すべき日だと思ったらいいんじゃないかな?だって夜があるのが当たり前なのだから。夜があれば、植物も動物も獣人も神も、眠り、冷やし、癒される時間を再び手に入れることができる。だが、突然夜が来たからびっくりするだろう。街に灯りが必要だろうね。」
ソラリクスはぼんやり周りが明るくなる程度の小さな球を手の上で大量に紡ぎ出す。
それをふーっと息で吹き飛ばすと、一斉に飛んでいく。
街のあちこちでその光が小さく灯る。
ソラリクスは笑っていた顔から、笑顔が消え圧倒的な存在感でそこにいるものたちに聞こえるように指示をする。
「昼と夜は半分ずつだ。必ず夜は明ける。安心したらいい。ガルーダ、フェニックス、再びわたしたちが夜を手にしたことは喜びであること、そしてあの絵のシームルグは誤りであることを世界中に広めるように」
「御意」
ガルーダとフェニックスの二人は膝をつき頭を下げる。
「ええと、それでシームルグの絵のそっくりさん、名前はなんていうのかな?」
ソラリクスはわたしの存在を困ったような目でみながら声をかけてきた
ゴミ屋敷を片付けたら異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けることになりました あずきかん @azukikan
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