第4話 ただの他人の空似です

「困った」

「なんてことだ」

「帰りたい。いや...もし命の保証があるなら帰れなくていいのかも」


ガルーダ、フェニックス、わたしの三人は、それぞれの思惑の中でいっせいに途方にくれた。

ぞろぞろ私たちの後をついてくる兵たちも、

「他人の空似だってよ」

「こんなそっくりなのにか?」

「とろくさそうだし、平凡な顔立ちだし、シームルグじゃないだろう。もしそうだったら今頃俺たちは石になってるさ」

「記憶がないだけじゃないのか?」

好き放題、がやがやと言っている。


私とシームルグが同じ顔なら、シームルグだって平凡な顔立ちだっていうのよ。全く!!


「そもそも、お前がシームルグだと認めれば早いんだよ」

ため息をつき、睨みつけるフェニックスに、目を爛々とさせてわたしは聞いてみる。

「ちなみに全く別人ですけど、認めたらどうなりますか?」

「そんなものすぐ死刑で終わりだ」

「別人です。他人の空似です」


ぜんっぜん早くない!

なんてものに似てしまったんだ。

平凡な死刑になる顔立ちなんて似なくていい!


「何度も言いますが、私は別人です。その場合これからどうしたらいいんでしょう?」

「大昔に異世界人が、迷い穴に潜りこんでやってきてしまうことがあったとは聞いたことがある。そのものは文明を変えるほどの発展を我が国にもたらすので大切に扱ったと記憶している。異世界人なら大切に保護だと思います」

ガルーダは、そこで一旦言葉を切り私をみる。

「ただ、そう言いつつも、あまりにもシームルグとうり二つでその慣例が認められるか戸惑っているんです」

「そうですか...」


ガルーダさんは冷静でいい人そうだけど...

それを聞いて、私は詰んだなと目を閉じた。


目の前の街の風景は、どうみても自分の生きてきた世界より発展しているもの。

少なくとも飛行機とかドローンとかではなく、彼ら自身が飛んでいるわけだし、電化製品とかこの世界に何かないものがあってたとして、こんなものがあると便利ですと言ったとしても、24歳ただの事務員のわたしが何ができる?

私にはなんの知識もない。

ファンタジーな世界にあるような能力もない。

わたしにできるのはせいぜい電球交換までだわ。


「先にお伝えしておくと、わたしの住んでいた世界よりこちらの方が発展していると思います。少なくとも、浮かんでいる城はみたことないですし」


それを聞いてガルーダは目を見開き、わなわなと震えるようにわたしに聞く。


「そんなことをして、どうやって!どうやってソラリクス様をお守りするのだ?」

「どうやってって?ええと、昔ならお殿様を守るのにお堀があって水を張って入らないように侵入を防いだり、城壁に返しをつくってよじ登らないというか、突き落とせるようにしたり、鉄砲穴とか石を落として兵を殺してたんだと思いますよ。」

わたしは持っている歴史の知識をフル動員して話す。

「水!突き落とし!鉄砲!!石で殺すのか!なんと残忍な」

フェニックスは、聞くに耐えないと顔を背ける。


おい、歴史上の人物にそっくりだというだけで人を殺そうとしたあんたたちが言うか??


突っ込みたい気持ちを抑えてフォローのように今の時代の話を付け加える。


「今は...総理大臣といって、国を守るトップみたいな人は、鉄砲でも通過できないバッグを持っている大勢のここにいる兵みたいな人たちに守られたり、家から地下を通路にして国会議事堂っていう、話し合いがされるところを移動して敵から攻撃されないようにしていると思うわ」

「地下!!地下っていうと地面の下か??」

フェニックスが信じられないような顔をする。


何かおかしなことを言ったかしら?


「地龍はどうやって抑える?モグラ族は?あいつらを怒らせたら、街のあちこちを掘りまくるから家が傾くぞ」

「寝ている地龍を怒らせたら、ひとたまりもありません」

「異世界人、恐るべしだな」


ガルーダとフェニックスの顔が恐怖に歪む。


「えっ!わたしが住んでる日本はまだ掘らない方ですよ。海外だと地下5階ぐらいは当たり前にあったりするし...というか、地龍はいないわ。モグラはいてもモグラ族はいないと思う。モグラ族って、どんな生き物か知らないけど...」


巨大ネズミを想像してぶるっと震える。

ゴミ屋敷で走り回るネズミやその死骸とどれだけ戦ったことか。


「いや、それだけじゃないぞ。その鉄砲というのはなんかの攻撃なのだろう。それをバッグで守る発想がよく分からない。盾ではいかんのか?」

「盾みたいなのを持っている人たちもいるわ。多分そっちの方が多いと思うわ」

機動隊がもっているような防御盾はよく見る。

「窓がついて、ちゃんと様子を見ることもできるし、透明のものもあるって聞いたことがあるわよ」

「窓!!」

「透明!!」

二人が声を合わせる。

「い、いや一般的なことしか知らないわよ。テレビに映ってるニュースでしかみたことがないし」

「ニュース??それはなんだ」

「テレビに映る?なんのこと言っている?」


どこまでもわたしと彼らの話は噛み合わない。

彼らはこの世界でどんなことが起こっているのかは、空間に画面を出して、その国々が提供するものをみるのだという。


「空間に画面を出せる方がすごくない?だって電気いらないのよ??」


そんな私たちの言い合いを見ている兵たちも、唖然とした顔でわたしを見つめている。


なんかおかしなことをいっている女がいる


そんな扱いに変わってきた。


「とりあえずソラリクス様に連絡して判断を仰ぐか?」

「だが、ソラリクス様に冷静な判断が出来るだろうか?愛する大聖女様が殺されてしまったんだぞ」

二人のこそこそ声が耳に入る。

「えっ?ソラリクスの子孫もいるの?」

わたしは思わず二人の会話に混ざる。

絵の中の子孫たちが活躍しているのだ。

確かに、ソラリクスの子孫だって活躍しているのかもしれない。

「不敬だ!様をつけろ」

「うっ!失礼しました。その、ソラリクスさまの子孫はいるの?じゃなかった。いらっしゃるのかしら?」

わたしは仕方がないとため息をつきながら聞いてみる。

「それを知ってどうするおつもりですか?」

ガルーダは先ほどとは違う少し冷えた声で聞いてくる。

わたしは思わず、言い淀む。


「え、どうするか??どうするかとか考えてないかも。

ただ、二人が絵の中の人たちの子孫なら、他にも子孫がいるのかもしれないなあって思っただけ。知らないでいいなら知りません。というか、知りたくないわ。世の中には知らない方が幸せなことなんて腐るほどあると思うの」


わたしは、二人の剣呑とした雰囲気に


知りたくない知りたくない。

くわばらくわばら


と手をブンブン振って拒否をする。

好奇心は猫を殺すっていうけど本当だわ。

余計なことを聞いちゃった。


「ソラリクス様の前にあなたを出したら...どうされるでしょうね」

「そりゃ、似てる奴が現れるだけで首を刎ねるんじゃないか?」


ガルーダがため息をつくように私をみると、フェニックスがそれに悪ノリしたような返答をした。


「本当にただのそっくりさんなんですよ。でも、仮にあなたたちに、ここでさよならと言われても、ここの世界で私は生きていけるのかしら?

その、私でもできそうな仕事ってこの世界にはありますか?パソコンならちょっとは使えると思うのだけど」

「パソコン??なんだそれは?」

「文字を機械に打ち込んで、それを相手の機械に送ったり、いろんな資料をまとめたり、計算したり...ないのかしら?そういうのは?」

「そんなのは賢者の仕事だろう。そんな機械に起こさなくても、一瞬で言葉を文字にするし、表にするし」

「なんですか!そのチートな能力は!」

わたしは唖然とする。当たり前のように語るけど、それ当たり前じゃないからね。


「チートって何かは分からないが、すごいから賢者だし、それらを纏めてきた大賢者様はさらにすごいから大賢者なんだろう」

呆れたようにフェニックスはため息をつくが、そろそろわたしの無能ぶりに気づきはじめたのか、少しだけフレンドリーになってくる。

「お前がシームルグのそっくりさんだっていうのは本当かもな。少なくとも月光神じゃない。厄病神っていうなら同意するがな」

「厄病神っていわれると、言い返せませんけど、最初から言っているようにわたしはただのそっくりさんです。」

わたしは、ほっとしたものの肩を落とす。


「パソコンも要らないなら、あと何が出来るかしら。生活費とかどのくらいかかるんだろう。家は?敷金礼金が要らないで月々わたしが働いたとして払えるところってありますか?」

わたしは二人をじっとみたが、ガルーダは首を振った。

「あなたが普通に一般に紛れて働くのは無理ですよ。この世界中の人たちがシームルグを知っている。そして彼女が、復活しないか恐れを抱いている。そっくりさんだとしても、あなたが何もできない人だと知っても無理でしょうね。何もできないうちに殺されるのが関の山です」


ため息をつきながらはぁーっと語られる言葉にひゅっとわたしは息を飲み込む。

なんで殺されるのが前提なのよ!

ああ、財産放棄して次の職場を探せばよかった。

わたしが元の世界で行方不明になったって、アパートの滞納で夜逃げしたと思われるのが関の山じゃないの!!

職場も無くなった今、探してくれる人すらいないわ。


「やっぱりソラリクス様に一度お目通りさせるしかないんじゃないのか?隠すこともできないし、隠す義理もないしな」

フェニックスも渋い顔をする。

「ですが、冷静に判断されないとそっくりな異世界人に手をかけたとなれば、ソラリクス様への批判の声がまた大きくなってしまうぞ」

「でもシームルグのそっくりだぜ。うまいこと言いくるめれば手をかけたって...」

二人のこそこそ声がわたしの耳に入る。


「誰とでも会えと言われたら会うわよ。でも、言いくるめずに手をかけないようになんとかしてちょうだい!」

わたしは思わず叫び声を上げた。



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