第2話 ドッキリ演出ですか?それとも?

「聞いているのはこちらだ!って...は??いや...まさか...そなた、名前は?」


転がり落ちたところは、どこかの舞台装置の中のような、いや美術館?どこだろう?

そして、わたしに話しかけてくる人は...外国人?

コスプレ?緑に、青い頭の人もいるな。


「わたしは...天童てんどう...飛鳥あすかです」

聞いた男は眉を険しく顰める。

「お前は、シームルグではないのか?」

「違います。しー??むる?なんていいました?」

とりあえず、その人と間違えられて刀を向けられているなら、首をブンブン振って全否定だ。

わたしは、冷や汗というのはこの日のためにあるのだというぐらい、顔からも背中からも滝汗が流れ始める。


先ほどまでの父の家からどうして?

あそこに穴でも空いていて、ころがりおちたらどこかの劇団の舞台装置だったのだろうか?


「お父...いえ、父の家に穴が空いていたなんて知らなかったんです。片付けて、気づかず落ちてしまって。この辺りに穴が空いていたはず...穴が?あれ??ない?おかしいな」


袋からゴロゴロ転がって落ちたのだ。

かなり落下したという感じはあるが、怪我をしてないんだからそこまでの長さや高さではないはずだ。

わたしは自分がいる場所の少し上周辺や床を必死で触る。

でも、悲しいほどに空を手が舞うだけ。

周りの人間も、

「動いたぞ」

「何たくらんでやがる?」

と囁きと同時にどよめきが上がる。


それを聞き、

「たくらんでない!む、無害!無害です」

わたしの動きもピタッと止まる。


「とりあえず、シームルグではないんだな」

男が確認するので、コクコク頷き違うことを再び告げる。


「どうします?ガルーダ様?」

名前を確認してきた男に、困ったように目くばせしてくる部下らしきものに

「フェニックスにシームルグそっくりの女が突然現れたと伝えろ。」

男は吐き捨てるように、言いながら刃先をしまう。


た、助かったの?助かったのよね??


それに合わせて周りの人も一斉に剣を鞘に入れる。

わたしは、冷や汗をかきながらもホッと一息つく。


とりあえずーーリアルすぎじゃない?

何?素人さんドッキリ?

それにしては、なんか危機迫ってるような雰囲気だわ。

プロ劇団ってこんなふうに上手いのかしら?



今ならわかる。

何も知らない、誤解しているからここまで慌てつつも、冷静になれたのだ。

ここが、自分の全く知らない世界、知らない国、知らない人種だとわかっていれば、叫び声でもあげて卒倒してしたのだろうけど。


思い込みとは恐ろしい。

転落してきて、他所の家に入ってしまったぐらいの感覚だったから、気絶することもなければ、この後のとんでも展開なんて誰も予想はしない。


それを噛み締めて実感するまで、わたしは夢を見ている、ドッキリ番組に出演している、からかわれているのどれかだと信じて疑ってなかった。



ーーー




「ぎゃーっ」

思わず出た声を塞ぐ。そして目の前の光景をがん見。

わたし以外誰も叫んでない。


いや、いやいやいや!!


「あ、あの?熱くないんですか?」


わたしの目の前で火だるまになっている人がいる。

臭いとかはないけど...

灯油とかの臭いもないけど...

どうして平気なの?


熱くないわけがない。

近くに寄られるだけで火が熱い!

ちょっと待って!

燃えてますよ!

どういう仕組み?


「確かにシームルグにそっくりだ。」

じーっと顔を近づけられるとその熱さで思わず背けるが、轟々と燃える火の中に人がいる。

いや違った。

人から轟々と火が出ている。


「うん、こうやって寄って話すと、熱いって嫌がるところが爽快だ。あはは」

「あははじゃないわ。あなた、大丈夫なの?どんな装置?服から火が出るの?それでも熱いわよ。火傷しないの?」


私は慌てる。これ以上の演出は要らない。

お互い火傷でもしたら大変だわ。

だって、今の私は無職になって次の保険申請も出来てない。健康保険も無保険ーー怪我も病気もできないわ。


たらりと汗が流れる。

ゴミ片付けてる場合でも、素人どっきりに出ている暇もないのよ。


「火傷??フェニックスの俺に?」

「名前はフェニックスでも、火傷ぐらいするわよ。私、今気づいたの。健康保険も資格が切れちゃってて、怪我できない体なの!こんな大々的に舞台準備をしているところに勝手に入ってしまって申し訳なく思うわ。でも、父の家に穴が空いてるなんて思わなかったの。ゴミ屋敷を掃除していて、袋の中身を確認していたら誤って落ちてしまったんだと思うわ」


フェニックスと言われる男は、体からシュッと火を消した。

だが、火を消した瞬間、一気にひんやりとした冷気が流れ始める。

それと同時に、赤い目からは憎々し気に目で殺せるものなら殺すと言わんばかりーー


ひっ!!!


わたしは座り込んだまま、後退りをする。


「逃げられると思っているのか??」

「い、いえ、思ってません」

「シームルグじゃないんだな」

「じゃないです。多分...」


わたしは、シームルグという人だという方が生存確率が上がるのか、違うという方が上がるのか必死にフェニックスの表情から判断を試みる。


ダメだ。

どっちも詰んでそう!!


炎を立ち上げていたくせに、氷のように冷え切った視線にもはや半分涙もちょちょ切れる。


「上を見てみろ」

フェニックスは、顎で上をしゃくる。


「うえ...上ですね。上、上」


上を向いた瞬間刺されるのだろうか?

両手も上に上げたまま、わたしは恐る恐る視線を上に向ける。


天井がみえる。

太陽と月のようなマークが描かれている。



「そこじゃない。左右を見てみろ」


左右ですか...

下にいる鋭い視線から逃れるように、右を見る。

西洋画のようなーー


なんか、こんな雰囲気の絵を見たことあるな。

ああ、思い出した。

レオナルドダヴィンチの「最後の晩餐」みたいな。


でも、流石に中に描かれている絵は違うわね。

どっちかというと美女美男が勢揃いしたような楽しそうに顔を寄せ合う風景だ


んん??

んん?ん?


「わたしがいる...」


美男美女の絵の中にわたしがいる。


「あの...わたしがいるんですけど...」

「お前と同じ顔のやつがシームルグだ」


へ、へえ。それはそっくりさん。


「そのまま、左をみてみろ」

「ひ、左。」


わたしは恐る恐る左を見る。


ひいいいいっ!!

なんでこんなところだけ、最後の晩餐のパロディしてるのよ。


左の右と全く同じ構図の絵は、最後の晩餐と似ているけど全く違う。


まさにわたしが、先ほどの右の絵のように笑い合っている絵の中心人物と思われる金髪金眼の美男子と仲間と思われる人たち、そして、シームルグと言われるわたしのそっくりさんは、小刀を今にもその美男子に突き刺そうとしている3秒前のような絵なのだった。

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