第4話 落花
僕らの神様は自分とは違う神様を創れるんだって。けど創った神様も創られた神様も同じ呼び方だと、間違えちゃいそうだね。
だから神様は自分以外には名前を付けて、自分には名前を付けなかったのかな。
カミに創られたのは、僕が最初。名はシラーと付けられた。
楽しい世界を創っていくため、アクセルを踏み続ける自分のブレーキになって欲しいと、子供のように無邪気な笑顔で言われたのを今でも覚えている。
僕は首を縦に振ってカミについて行った。それが僕の存在意義だから。
カミは神様としては未熟だ。それは僕を創ったことでよくわかる。
寂しくて誰か一緒にいてくれる存在を必要とするのだ。神の力が混ざった僕に寿命はないが、ずっと一緒にいることはカミの為にならない。
世界がある程度安定したら、僕はカミから離れなければならなくなる。けれどそれを言えばカミは許さないだろう。
子供のように寂しがり屋な神様。けれど未熟な神様は世界を見守れない。
だから僕は君に黙って離れようと思っていたんだ。
世界が安定して、カミと町をフラフラ歩いて回る日々。楽しいけど、もう僕はカミから離れなければいけない。そう思うと寂しくて、上手く笑えない時もあった。
けれどカミは神様だから、壁を乗り越えて一人前にならないといけない。
いつもの様に悪事を働いた人を懲らしめる。今日は刃物を持った反抗的な不良たちが相手。僕の回し蹴りで刃物なんてすぐに弾き飛ばせるけど、カミの為なのだと自分に言い聞かせ、わざと不良たちに急所を狙うよう挑発し、カミの目の前で刺されて死んだ。
「──」
僕の狙い通りに急所を刺してくれた不良たちに逃げるよう目配せし、僕は死を覚悟して笑った。
ちゃんと笑えていたかわからないが、カミの為なら死ぬことは怖くなかった。
僕の死を乗り越えて一人前の神様になってほしかった。ただ、それだけだった。
目の前でシラーが刺されて倒れた時、俺は何が起きたかわからずただ立っていた。刃物を持った相手は今まで何人も相手してきたのに、何故躱さなかったのだろう。
「シラー……?」
なんで笑っているんだ。真っ白なシラーのジャケットが鮮血で染まるのを呆然と見ていた。逃げた不良を追うこともせず、ただシラーを見ていた。
「なんで、どうして……こんな……」
この世界で初めて創った友達、相棒、家族、どれにも当てはまる俺の大切な存在が、目の前で死んでしまった。
そう理解するのにかなり時間がかかった。とにかく家に帰ろうとシラーを背負った時、冷たくて軽かった。
家に帰って、シラーをベッドに寝かせてから、俺はすぐに甦らせようと深呼吸をしてからシラーの魂を探した。まだ消えていないはず、体は後でいくらでも治せる。魂を引き戻せれば大丈夫だと、その時は思っていた。
死んでから、カミが僕の魂を探しているとすぐにわかった。
家に行けば反魂を行っているというのもわかった。けど僕は戻るわけにはいかない。カミの為を思って死んだのに、戻ったら意味がない。
けれどカミの力に逆らえず、僕の魂は血まみれの体に引き寄せられる。
結局は創られたモノ。力の差は、考えることすら愚かだっかか。でもこのまま戻れない。
悩んだ僕が出した結論は、カミの記憶から僕を消すこと。
反魂が完了する前に僕を忘れれば、術を途中で止めるかもしれない。その可能性に賭けて必死に力を使った。
カミが僕を必要としてくれるのは痛いほど知っているし、僕もできれば離れたくはない。
だがそれではいけないのだ。創りかけの世界の為にも、それをわかってほしい。
「二度と思い出さなくていい──この世界はカミ一人で創ったんだ」
それでも、カミの力は凄まじかった。結局カミの中にある僕の記憶を中途半端に消した状態で、僕は反魂によって一度離れた体に戻されてしまった。
しかし、反魂で体に戻った時すぐに異変に気付いた。
僕の魂とは別の魂があると。
記憶を消されながら反魂を行ったせいで失敗したのだろう。僕はすぐに何も知らない創られた魂に体を譲ることにした。
「いいよ。僕は君とカミを見守ることにする」
生まれたての魂は、何のことかわからない、という顔をしていたが、僕は戻りたくなかったので好都合だ。
僕は魂だけで、カミとこの子を見守っていこう。忘れられたカミには僕の姿は見えないが、こうなったら世界の行く末をも見守っていくことにした。
カミを止められなかったのだから、これは仕方のない結果だ。せめて、僕の死が無駄ではない方向に進めばいいと願うしかない。
何か大切な人を甦らせようと反魂を行ったが、一体誰のことなのだろう。
目の前に横たわる黒髪の男は、誰なのだろう。虚ろな深緑色の目でこちらを見てくるが、思い出せない。だが、大切な人だった気がする。
「おはよう、シャガ……」
「……シャ、ガ?」
不思議そうに首を傾げたので、君の名前だと教えてあげれば素直に頷いて復唱した。
反魂なんて、初めて行った術のせいで記憶が一時的に飛んだのかもしれない。仮に名付けたシャガと一緒にいればそのうち思い出すだろう。
そう思って、赤子のように真っ白な心を持ったシャガにこの世界を教えてあげた。
本当はここで気づくべきだったのかもしれない、俺の過ちを。
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