第5話 添え木の限界
神様は失敗しました。そして僕が生まれました。けど神様は失敗に気づいていません。
それを言ってはいけません。シラーさんとの約束なのです。
シャガと一緒にいる時間が長くなるに連れて、俺はイライラし始めた。
シャガに対してではない、自分に対してだ。あれから何年も経つが、俺が本当に甦らせようとしていたのは誰なのか思い出せない。
シャガではないことは薄々感じている。神である俺が単純に忘れるわけがないのだ。何か見落としているはずだ。
だが何度思い出そうとしても、真っ暗な空間と誰かに手を差し伸べている自分しか思い出せないのだ。自室のソファーに寝転びながら頭を抱えた。そこに明るい声が飛んできた。
「神様、コーヒーショップに行ってきます」
「……ああ、気をつけてな」
なるべくシャガに八つ当たりをしないように、素っ気なく返事をして見送った。以前は一緒に出掛けたりしたが、今は一緒にいるだけでイライラするので止めた。
シャガも気づいているのだろう、無理に誘ったりせず最低限の会話しかしない。
「誰と一緒にいるんだ、俺は」
ぽつりと呟いて、考えるのを止めた。どうせ答えなど出ない。俺は一体何をしているのだろう。
「神様が怒っているのは、僕がシラーさんじゃないから?」
曇天の下、カフェオレを片手に公園のベンチに座り、シャガが寂しそうに呟いた。
僕の魂がカミには見えていないとはいえ、カミの前で僕の存在のことを言わないよう言っている。だから僕とシャガが会話するには外に出なければならす、シャガはそれをちゃんと守ってくれている。素直な子だ。
「カミは僕を甦らせようとしたことを忘れている。それを思い出せない自分にイライラして、シャガに当たっているんだよ……」
優しく頭を撫でて、シャガは何も悪くないと言ってあげる。シャガは俯いたまま黙ってしまった。
あの日以来、世界は悪い方向へ向かっている。
カミが管理を怠っているせいで治安も何もかもが悪くなって、人々はカミを無視して自分たちを守るために進化を続けている。悪い方向に。
自分たちの利益を優先し、工場が増え、外の空気が昔よりも悪くなっているのがすぐにわかる。視界も少し霞むほど悪い。公園には僕ら以外、人はいない。子供もいなくなってしまったのだ。
「シャガ、ごめんね。僕のせいで辛い思いをさせているね」
カミが僕を求めてシャガを創ったと知ってから、本当はもっと活発な子なのに、僕を真似て生きているのだ。それがたまらなく申し訳ない。
「いいんです。僕がシラーさんになれば、神様はきっと、きっと笑ってくれる。世界を直してくれます」
それはどうだろう、なんて言えない。シャガは必死に自分にできることを考えているのだ。否定なんてできない。
だけど、例えシャガが僕の代わりを務めたとしても、カミはこの世界を直せるのだろうか。
まじめな何処かの神様が創ったような世界になりつつあるこの世界を。
「シャガ、カフェオレ飲んだら帰ろう。暗くなると不良が湧いてくるから」
「大丈夫ですよ。シラーさんに鍛えてもらったんで、不良くらいなら倒せます!」
そう言いつつ素直にカフェオレを飲んでくれる。本当にいい子なのに、こんな面倒なことに巻き込んで申し訳ない。
「飲みました。帰りましょう、シラーさん」
無邪気な笑顔に、心は痛むばかりだ。
神様にネリネの花束を 朝乃倉ジュウ @mmmonbu
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