第六話

 ──それから、時は流れ。

 結果として、星野くんの案は面白いくらい予想通りにクラスの皆に受け入れられた。


 題材さえ決まってしまえば後は早いもので、芋づる式にどんな掲示物にするかの案が出てくるようになり、話し合いはとても捗った。


 最終的に、教室の前の入口から壁伝いにぐるりと回るように後ろの出口へと歩きながら、一年を通しての星空の動きや主要な星座や銀河などについての詳細を学べるようにしつつ、教室全体をほんのり暗くして空いた中央のスペースにいくつもの星型を切り抜いた蓋を被せた照明を設置し全体を星の光で淡く照らす、プラネタリウムから着想を得た展示室を作ることに決まった。


「ふぅー……なんとかクラスの皆が納得できる形になって良かったね、星野くん」


「天河さんが上手く話し合いを進めてくれたおかげだよ、さすがは学級委員だね。後は、文化祭当日に向けて必要なものを用意していくだけだ」


 総合の時間、ワイワイと賑やかに分担した作業を進めるクラスの皆を見渡しながら、私と星野くんは笑い合う。


 ──ここ最近、文化祭の準備が本格的に始まってからあの憂いを帯びた青い瞳を見る頻度がめっきりと減っていた。その分よく笑顔を見せるようになった彼の隣で、私も自然と笑うことが増えたような気がする。


 文化祭当日は、勇気を出してコンタクトに変えてみたり、髪型をちょっといじったりしてみようかな──彼に、もっと私のことを見て欲しいから。


 * * *


 十一月の最終週──空風に吹かれて道端に積もった朽葉色の絨毯が、静かに秋の終わりを告げる季節。


 近隣の小学生たちが授業の一環で見学にくる以外では一般人の参加は予定されていないからか、例年金曜日に開催される文化祭。今年も変わらず、木曜日に設けられた大規模な準備時間を経て開催の時を迎えていた。


 ──私は、結局髪型をいじるまでには至らず、眼鏡をコンタクトに変えた以外は目立たない色のリップを塗ったくらいで、おしゃれらしいおしゃれをせずにいた。それでも何事かと問い詰めてきた美来は、適当な理由であしらっておいた。


 クラスの皆と、なにより星野くんと力を合わせて作り上げた文化祭。幸い明日明後日は休日だし、今日だけは少しくらいハメを外して全力で文化祭を楽しんで、彼との思い出を沢山作ろう……そう、思っていたんだけど。


「星野くん、こっちの照明は問題ないよ……星野くん?」


「っあ、いや……ううん、なんでもない。チェックありがとう、天河さん」


 私の呼び掛けに、ハッと肩を揺らして振り返った星野くんは控えめな笑顔を向けてくる。


 ──見るからに、星野くんの様子がおかしかった。私やクラスの皆が声を掛けた時を除いて、常にあの憂いを帯びた青い瞳でどこか遠くを見つめていた。思い詰めたような表情で、心ここに在らずといった感じで。


(なんで……昨日まで、あんなに楽しそうに笑っていたのに……なにがあったの、星野くん……?)


 どう見ても普通じゃない。絶対なにかあったに違いない。けど、怖くて事情を聞く勇気が出せない。声が喉を通る直前でどうしても思い出してしまう、あの憂いを帯びた青い瞳に射抜かれた時の、全身に鳥肌の立つ感覚を。


 ──今日まで、何度も彼のおかげで前を向いてこれたのに。私は彼になにもしてあげれないのか。自分に対する落胆が、心に重くのしかかる。


(……いや、違う。なにもしてあげれないなら、せめて彼の分まで私がクラスを引っ張らないと! こんな時こそ、学級委員としての力の見せどころでしょ!)


 ぱちんと手のひらで自らの両頬を叩き、気合いを入れ直す。今だけはクラスのために文化祭に全力で向き合う。本当は彼のことが心配で仕方ないけれど、それでも前を向くと決めた。


 全ては、彼と一緒にここまで作り上げた文化祭を「成功」という最後のピースで完成させるために──。


 

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