第五話
「うーん……なにをするのか、中々まとまらないね」
「五教科に関係のある題材ってのがなぁ。どうしても勉強と結びつくから、今一気分が乗らないのも無理もないよな」
私と星野くんが実行委員になって、数日──クラスの皆はとっくに下校した放課後の教室で、机を挟んで向かい合った私たちは頭を悩ませていた。
私たち二年生は「学習作品の掲示」ということで、いわゆる五教科のどれかに関係のある題材を用いた作品を教室や廊下などに掲示することになっている。
一年生の合唱や三年生の演劇と比べて比較的自由度は高いけど、それゆえにどの教科のなにを題材にして掲示物を作成するのか、皆の意見が中々まとまらずにいた。
「せっかくなら、作るのも見るのも楽しいものにしたいよね」
「そうだね。それと、他のクラスと内容が被るのはできる限り避けたいな」
「星野くん、二組と三組はなにするか知ってるの?」
「確か……二組は社会で戦国時代の年表と一緒に城とか合戦のジオラマを並べるらしくて、三組は英語で世界の祭りや文化をまとめて表にするらしいよ」
「えー、どっちも面白そうだなぁ……そういうことなら、
帰りの会での話し合いで挙がった題材候補のリストとにらめっこしながら、うーんと唸る。
隣の芝生は青いというか、他の組の題材はどれも魅力的に聞こえた。私たちも負けないようにしないと……と、心の中で焦りが芽生える。
「おや……なんだ、まだ話し合っていたのかお前たち?」
「あ、先生……」
不意に教室の外から声を掛けられ、顔を上げるとそこには担任の先生の姿があった。
その手に鍵束を持っているところを見る限り、戸締りしにきたらしい。
「陽はとっくに落ちてる、部活をしてた生徒も少し前に下校したぞ。二人も早く帰りなさい」
「そうですね……分かりました。天河さん、続きは明日にしようよ」
「うん。その方が良さそうだね……帰ろっか」
先生に促され、私と星野くんは鞄を手に立ち上がる。気づけば、窓から覗く風景は真っ暗になっていた。
「外は暗いからな、気をつけるんだぞー」
そんな先生の言葉に挨拶を返し、私たちは並んで階段を降り昇降口へと向かう──あれ、これってもしかして、星野くんと二人で帰る流れだったりする?
靴を履いたところでそのことに気づき、ひとりどぎまぎしていると、昇降口をくぐったところで星野くんが振り返り、手を差し伸べてきた。
「さすがにこの暗い中、女子をひとりでは帰らせれないからさ。送っていくよ」
「あっ、うん……よ、よろしくお願いします」
* * *
──校門を抜け、通学路を二人並んで歩く。
歩き慣れているはずのその道は、星野くんの存在と夜の闇に彩られ全く異なる景色のように私の目に映っていた。
「……この町は星が綺麗だね。俺が前に住んでたところは、こんなに鮮明には見えなかったよ」
「そうなんだ……まぁ、この辺はどっちかっていえば田舎だし、その分空気が綺麗なんだろうね」
私の歩幅に合わせて歩きながら、ふと空を見上げた星野くんが呟く。
星のように綺麗な青い瞳を輝かせ、薄雲ひとつない夜空を見つめるその横顔に思わずドキッとしつつ、私は相槌をうつ。
「あ、星といえば……」
ふと思い出したように、無意識のうちに言葉が漏れる──が、自分にとっても少し嫌な話題だし、彼にとってはそれ以上不快なものかもしれない。既のところで口をつぐむ。
しかし星野くんには聞こえていたようで、首を傾げたのちピンときた様子で「あー……」と眉根を下げた。
「もしかして、俺と天河さんが陰で“織彦コンビ”とかなんとか呼ばれてるって話?」
「あ……やっぱり、星野くんも知ってたんだ」
困ったような笑みの星野くんに、私も苦笑を浮かべる。
私たちが実行委員になって間もなく、私の名前の香
私たちが二人一緒にいるのは実行委員だからであり、それを揶揄われるのは正直いい気分はしない。
かといって、別にムキになって言い返すほどのことでもない……そう思っていたけど、星野くんの耳にも届いているとなると話は別だ。
どうやって止めさせようか──そう考えていると、ため息をつきながら星野くんが口を開く。
「まぁ……この手の話題が嫌いな人はいないからな、無理もないか。天河さんも、皆の言うことなんてあんまり気にしない方がいいよ」
「……うん、分かってるよ」
肩を竦めながら呆れ口調で言う星野くんに、私は愛想笑いで返す──チクリ、と。彼の憂いを帯びた瞳を見た時とは違う痛みが胸に刺さり、小さく唇を噛む。
彼が私のことを気遣ってくれているのは分かる。けど、その言葉はなんだか私のこと
「──そうだ、良いこと思いついたぞ!」
不意に立ち止まったかと思うと、星野くんは普段あまり聞かない弾んだ声を上げる。
密かに項垂れていた私は慌てて顔を上げながら「ど、どうしたの?」と首を傾げると、彼は得意げな笑みを浮かべた。
「この際、俺たちが揶揄われてる状況を最大限利用してやろうと思ってさ」
「り、利用してやるって……どんな風に?」
「星だよ。科目は理科で、題材は星! ……具体的にどんなものを作るかは後で決めるとして、“織彦コンビ”なんて呼ばれてる俺たちが星の題材を提案したらさ、クラスの皆も面白がって乗ってくれるんじゃないかって思うんだよ。どうかな?」
なるほど、と思わず呟く。クラスの意見がまとまらないのは、つまるところ皆が「面白い」と思えるような案が挙がっていないからであり、そこで星野くんは自分を
その狙いに気づいた私が真っ先に抱いた感想は──彼はとても強いんだな、だった。
「あっ、もちろん天河さんも当事者な訳だし、もしも嫌なら別の案を考えるけど……」
「……いや、それでいこうよ。思いっきり吹っ切れてやる方が、良い方向に向かっていけそうな気がする」
思い出したように私を気遣ってくれる星野くん。だけど、私はこれ以上ない名案だと納得していた。
──それに、これまで色々揶揄われてもそこまで気にしていない
「そっか。天河さんがそう言ってくれるなら、明日の話し合いでさっそく皆に提案してみるよ」
「うん、そうしようよ。 ……ふふっ、驚く美来たちの顔を見るのが今から楽しみだな」
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