第三話
──それから時は流れ、十一月。
秋めく気候に合わせて冬服へと衣替えが行われたことを除けば、特に変化のない日常が続いていた──強いて言うなら、受験生となる来年に向けての進路調査や面談が徐々に増えてきたくらいか。
私が第一志望として目指している高校は、この地域では一番偏差値の高いところ。今の学力的に、ちょっと厳しかったりする。
こんな時、星野くんくらい頭が良ければなぁ、なんて考えなくもない……今度、勉強のコツを教えてもらおうかな?
──けど、今月はある意味来年の進路よりも注目すべき、大きな行事が控えていた。
「文化祭……? 中学校なのにあるんだ、珍しいね」
週始め、月曜日の教室──朝の会で先生から配られたプリントに目を通していた星野くんは、相変わらず前髪に隠れた綺麗な青い瞳を私に向けてくる。
心なしか声が弾んでいるというか、どこか期待しているような様子の彼に「去年は私たちもこんな感じだったなぁ……」と心中で呟きつつ、苦笑を零した。
「まぁ、文化祭っていってもほとんど発表会みたいなものだけどね。一年生は合唱、二年生は学習作品の掲示、三年生は演劇……みたいに、やることは学校側である程度決められてるし」
「ああ、なるほど。そんな感じなのか……それはそれで楽しそうだけどね」
期待外れかもだよ、とネガティブな感情を言外に含んだ私の説明に、なおも楽しみだといわん風に笑顔を浮かべる星野くん──しかし、ふと視線を逸らしたと思うと、どこか思い詰めるように遠くを見つめた。
「あっ……」
ここ数日、前と比べてかなり頻度が増えた気がする。あの憂いを帯びた青い瞳が、一体なにを映しているのか私には見当もつかない。それでも、彼がなにか悩みごとを抱えていることだけは確かだった。
「っあ、あのさ──……」
「はーい! 皆さん席について下さいねー」
もしかして、なにか悩みごとがあるの──意を決してそう聞こうとしたところで、教材を小脇に抱えた数学の先生が教室に入ってくる。気づけば一時間目の授業が始まる時間だった。
ああもう、タイミング悪いなぁ──思わず零れそうになった愚痴をぐっと飲み込み、先生の方を向きながら「起立っ!」とクラス全体に号令を掛ける。思わず語気が強くなってしまったが、幸い気づいた人はいないみたい。
授業開始の挨拶を終えただけで、なぜかすごく疲れたような気がして密かにため息を吐いていると、不意に星野くんが声を掛けてきた。
「……天河さん、さっきなんか言いかけた?」
「──えっ? い、いや……っ別になにも、言ってないと思うけど……」
「……? そっか、それなら良いけどさ」
視線を逸らしながら首を横に振った私に、頭に疑問符を浮かべながら先生へと視線を戻す星野くん。
──咄嗟に、嘘をついていた。周りには聞こえない囁くような彼の声に振り返った瞬間、まっすぐ目が合ったのはあの憂いを帯びた青い瞳だったから。
瞬間、ドキッと心臓が跳ね、焦りで頭の中が真っ白になり──そして、なぜか全身に鳥肌が立っていた。
会話を切り上げながらもどこか釈然としない様子の星野くんに誤魔化すような愛想笑いを浮かべつつ、未だ煩く高鳴る心臓をぎゅっと抑える──その日以降、私は彼のあの瞳のことを聞くのが怖くなってしまった。
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