ち。




川色歩夢は、

手に入れた知識と能力の限界を試す為に

小説投稿サイトを新たな実験場とした。


今回の実験の目的は、

応援コメントだけで、相手の作風,(個性)を

完全に変えられるかどうか。


歩夢が探したのは、

「操り易そうな作家」だった。


その条件は厳しかった。


人気がなく、自分の才能や個性を疑い、

しかし(売れたい)

という強い渇望と名声への欲望がある人間。


歩夢は知っていた。


欲望が強い人間ほど心の動きが読みやすく、簡単に操れることを…。


そして、歩夢は理想的なターゲットを見つける。


星もレビューも少ないが、

売れたいという欲望だけが空回りしている、と歩夢が嘲笑する愚かな作家だった。



歩夢はまず、その作家の物語と、他の作家の物語を読んだときの応援コメントや反応を、徹底的に分析した。


その作家の心の奥底にあったのは、孤独、否定、無力感、そして名声への渇望だった。


この反応を掴んだ歩夢は、

計画を開始する。


歩夢はその作家に良い印象を与えるコメントを送ることから始めた。


物語の感想をこまめに送り、とにかく褒め称えた。


すると相手は、謙遜したり否定しつつも、徐々に歩夢のコメントを待つ様になる。


それが確信に変わったのは、

歩夢が「自分はファンタジーが好きだ」と

書き込んだ時だった。


その作家は、すぐに作風を転換し、

ファンタジーを書き上げて発表したのだ。


歩夢はそれを読み、感想を書く。


作家は、完全に歩夢という

(ただ一人の読者)に依存し始めていた。


関係性が確立したのを見た歩夢は、

突如としてコメントを中断した。


沈黙を保ちながら、

今度はその作家が以前から

ライバル視していた別の作家の物語を、

わざとらしく褒め称えた。


すると、ターゲットの作家は

パニックに陥った。


歩夢に読んで欲しいと、必死で歩夢好みの

物語を描くようになった。


彼の物語は、もはや

作家自身の個性のかけらもなく、

ただ歩夢の好みの物語を書き続ける。


空虚で中身のない作家へと

成り下がっていた。


歩夢は、その一連のやり取りを見て、

笑いが込み上げる。


「なんと滑稽なのだろう」


歩夢は、完全にその作家から個性を奪い、

自分の操り人形にしてしまった。


歩夢は、この手の操作を何度も繰り返し、

その優越感に浸り続けた。


しかし、歩夢は実験に飽きると、唐突に

小説投稿サイトの閲覧を辞めてしまう。


能力は確信となり、実験の目的は達成されたからだ。


それから約一月後、あるニュースが流れた。


「小説投稿サイトで執筆活動に悲観し、

自殺した人物がいる」


という報道だった。


嫌な予感がして、歩夢は久しぶりに

小説投稿サイトを開いた。


サイトを開くと、

歩夢のメッセージボックスには、

操作していた作家から悲痛な叫びともとれる

「出来たから読んで」というメッセージが

何通も届いていた。


そして、そのメッセージは、

自殺のニュースが流れた日から途絶えていた。


歩夢は、激しい吐き気に襲われ、

胃の中にあるものを全て吐き出した。


同じ人間かどうかは、

わからない。


しかし、歩夢には確信があった。


分析で把握した作家の住む

場所、性別、年齢、生活水準、

すべてがニュースの報道と全く

同じだった。


誰も歩夢が手をかけたとはわからない。


物理的な証拠は何一つないのだから。


だが、歩夢は決して自分を許すことはなかった。


人を操り、その結果、一つの命を絶望に追いやった。


歩夢の人生を明るくする能力は、父親と同じ(加害者)の道へと歩夢を導いた。


それから、歩夢は二度と

小説投稿サイトに近寄らなくなった。


能力がもたらした罪の意識だけが、歩夢の

心を黒い膿の様に蝕み続けたのだった…。



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