ちから。



川色歩夢は、心の欠片を集めるように、

小説投稿サイトで物語を書き続けた。



歩夢の心の変化は、確実に周囲に影響を与えていた。


家族を取り巻く雰囲気は

以前よりも穏やかになって

いったのだ。



妹の菜緒は、以前ほど頻繁に自分の体を傷つけることはなくなった。


母親もパチンコ通いは続けているものの、以前のように貯金を使い込むほど派手に浪費することは減った。


さらに、母親はパチンコ仲間が

できたようで、身だしなみに

気を使い始める様になった。


どうやら外の世界に自分の居場所を見つけたようだった。


歩夢自身も、以前より胸を張り明るくなった。



頭の中で聞こえる他人の声も、

(背景の雑音)のように感じ

あまり気にしなくなった。


そして歩夢は、心を開いて話せる"友"と呼べる仲間を得た。


勇気を出した歩夢は、

その友に、頭の中に人の声が

流れてくることを伝えてみた。


友は引くどころか、目を輝かせ、


「もしかしたら、お前、心を読めるんじゃないか?」


と面白がって実験を提案してきた。


友は紙に明日の予定を書き、

それを歩夢以外の人間にだけ見せてから、


歩夢に


「何を考えているのか当ててみろ」


と言ってきた。


雑多な声が頭の中で交錯する中、

歩夢は集中し、友の声を拾い上げる。


「明日は、限定盤のDVDを買いに行く」


歩夢がそう伝えると、

友は驚きと興奮で叫んだ。

「当たった!やっぱお前、すごいぞ!」


心が高揚した歩夢は


この成功に自信を得て、


次はより高度な実験を試みた。


彼は精神科の医師にも同じことを試してみた。


診察中、歩夢は医師の思考を

正確に拾い上げた。


「先生、今僕の事を診察していますが、お昼ごはんの事を考えていましたね。」


「その後、(うわ、気持ち悪い。いや、たまたまか?)とも思いましたね?」


さらに畳みかけるように、

過去の診察時の思考まで突きつけた。


「それに、先生は以前、僕のことを(重度のトラウマと解離性障害だな)とも考えていましたか?」


それを言われた途端、医師は

動揺し、それ以来、歩夢と目を合わせずに

診察を続けるようになった。


歩夢は歓喜した。


「やっぱり!僕は頭がおかしいんじゃない!」


「本当に心の声が聞こえているんだ!」



歩夢は自らの能力に喜び、それを活用し始めた。


周囲の人間の心を読んで行動を先回りし、

求められる対応を取ることで、人間関係を

スムーズに進めようとした。


しかし、歩夢の対応は、

かえって人間的な隙を失わせる。


人々は歩夢の不気味さに気づき、徐々に距離を取り始めた。


だが、歩夢はもう平気だった。


なぜなら、この能力は使い方次第で、

自分の人生を根本から変えられる力があると確信したからだ。


歩夢はそこから心理学を学び始め、

より高度な心の読解へと進む。



心理学の知識と、心の声を聞く能力を

組み合わせることで、

歩夢は新たな能力を発見した。


それは、文章から相手の気持ちを正確に読み取る力であった。


対面では、様々な思考が聞こえてくるため

読み取るのが困難だったが、文章からだと、比較的簡単に、その奥にある感情や真の悩みを把握できた。


歩夢は、この力を(人間を操れる)力だと

認識し、実験を開始した。


歩夢は手頃な人間を見つけては、その知識と

能力を使い、どこまでできるかを試みた。


歩夢はまず、相手の悩みを言い当て、その後はただ共感的に話を聞いてやる。


そして、世間に溢れている占い師と同じように、適当な解決策を提示した。


すると、ほとんどの人間が深く感謝し、

歩夢を尊敬するようになった。


いつしか歩夢の言葉を聞かないと

動けなくなる人間も現れる。


心の声を読む力と心理学の知識

を手に入れた歩夢は人を操る

快感に溺れていく…。


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