第4話 質量の保存

デバイスのLEDランプは、残り一つ。  あと一回。  次で失敗すれば、バッテリー切れだ。  どちらかがいない世界で、俺は生きていかなければならない。  結衣を殺して陽と生きるか。陽を殺して結衣と生きるか。  選べるわけがない。

 湊は書斎に籠もり、事故の映像と周辺の見取り図を徹底的に解析した。  トラックの運転手は心臓発作を起こしていた。つまり、トラックの暴走自体は止められない。  トラックの重量は約四トン。速度は時速六十キロ。  このエネルギーの塊が、交差点という狭いエリアを通過する。  二人を安全圏に逃がすには、物理的に時間が足りない。あるいは、逃げた先で別の何かが起きる。

「……何か、別の質量をぶつけるしかない」

 湊は一つの結論に達した。  トラックの軌道を変えるには、それ相応の衝撃が必要だ。  だが、現場にそんな重機はない。  あるとすれば。

 湊はガレージを見た。  SUV車。重量約二トン。  俺が運転して、あの交差点へ突っ込む。  横からトラックに衝突させれば、軌道は大きく逸れる。  当然、運転している俺は死ぬだろう。  だが、二人は助かる。

「……そうか。それが答えか」

 湊は笑った。乾いた笑いだった。  簡単なことだ。  俺がいなくなればいい。  俺がいない未来で、結衣と陽が笑って暮らしているなら、それはハッピーエンドだ。  そう思えば、不思議と恐怖はなかった。

 湊は遺書を書いた。  タイムリープのことは書かない。ただ、家族への愛と、感謝だけを綴った。  そして、デバイスを手に取る。  最後のランプが、心臓の鼓動のように赤く点滅している。

「行ってきます」

 ボタンを押す。  最後の3分間が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る