第3話 行方

病を治すという名目のもと村へ呼ばれた彼女だったが、その行方を辿っても不思議なことに病人には辿りつかない。


彼女が病人達の元へ向かったのはオースティンによって案内された時だけで、暗く閉ざされた部屋の中で横たわったまま動かない義娘達を見ると「静かに見守っていてあげてくださいね」という言葉だけを残し、場を離れた。


彼女が代わりに足を運ぶのは、エンレイ村の裏山。


何をしているのかは知らない。

教えてもらっていない。


荷物も持たずに早朝出かけたかと思えば、陽が落ちる頃に帰ってくる。


謎まみれの彼女の行動に最初村人たちは皆で首を傾げるばかりだったが、次第に村老たちからは懸念の声が上がり始めた。


治療の内容を明らかにせよという抗議の声ではない。

伝承上の人物に深い畏敬の念を持つ彼らにそのような発想はない。

オースティンが受ける言葉の数々は純粋に彼女の身を案じるものばかりだった。


あの山で息子たちは死んだのだ。

ある日突然、人が死ねる場所なのだ。


なので考え直して頂けませんかと、今日も早朝から玄関先でブーツを履いている彼女の背にオースティンは訴えかけたが「必要なことなんです」と柔らかく、けれどもきっぱりと言い切られてしまえば、制止の手を広げ続けることもできなかった。せめて案内人をつけるべきだという意見も多かったが、他ならない彼女が決して首を縦には振らなかった。


危険なことはしない。小さな傷、一つでもつけばお願いする。


苦渋の表情をするオースティン達を見かねてか、提示された条件。

破られる気配は未だみえない。

皆の心がざわめく日々はほんの少しばかり続いた。


けれどもそんな日々にも突然、終止符は打たれることになる。


「とどけびと様、今日はずっと村にいらっしゃるのね」

「ほんとうね、珍しいことだわ」


夜の帷が降りた頃。村のシンボルである巨大樹の前にて。


「何が始まるんだろう」


その様子を影に隠れて見守る者たちは言う。

本来静けさのみで構成されるはずの村は、秘めたような囁き声で溢れていた。


『どうかお願いいたします』


それは彼女にしか聞こえない声。


『妻たちとどうか」

『このまま放っておくなんてできません』


彼女だけが受け止められる声だ。


そう、ここにいる彼女だけが。


耳に掛けた黒髪の隙間からは深紅のイヤリングが揺れる。

薄い唇からは彼らに向けた言葉が零れ落ちた。


大丈夫ですよ、と。


紡いだ言葉は死者である彼らに向けて。


―必ず届けて見せますから


その魂に秘めた絶望と。

数えきれない後悔に。

伝えることすら叶わない切実な想い。


その全てを拾いあげ。

彼らの未練を断ち切る。


それこそが彼女の仕事。


女は昨日まで探し続けたネックレスの欠片を丁寧につなぎ合わせると、少々短くなったそれをアメリアという名の少女の腕に嵌めた。


「お母さんと一緒にいてくれる?」

「それでおかあさん、げんきになる?」


死して尚、想いは残る。

この世界の中に。

何よりも大切にしていた物の中に。


少女の眼に映った彼女は小さく頷いてみせた。


―今のお母さんに効く一番のお薬はきっとこの方法だから


「始めます」


淡い紅のひかれた唇が小さく動いた。


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