魔王城の遺産と、壊れた規格外(エラー)


「おいポチ、まだ着かないのか?」

『クゥ〜ン(もうちょっとです、旦那)』


 俺はヘル・ウルフの背に揺られながら、あくびを噛み殺した。

 名前はポチと付けた。

 最初は嫌がっていたが、ドラゴンステーキの余りを与えたら尻尾を振って受け入れた。現金なやつだ。


 俺たちが目指しているのは、ポチの案内による『旧・魔王城』の跡地だ。

 数百年前に勇者によって滅ぼされたらしいが、そこにはかつての魔王が人間界へ侵攻するために使った「転移門(ゲート)」の研究資料が残っているかもしれない。


 やがて、紫色の霧の向こうに、天を衝くような漆黒の尖塔が見えてきた。


「へえ、立派な廃墟じゃないか」


 崩れかけた城門の前には、門番代わりの巨大なゴーレムが鎮座していた。

 全身がミスリル銀でできた、対魔法防御に特化した自律兵器だ。人間界なら国宝級の脅威だろう。


 ギギギ、とゴーレムが動き出し、侵入者である俺に巨大な拳を振り上げる。


「邪魔だ」


 俺はポチの背から降りず、すれ違いざまに裏拳を一閃。

 

 ガゴォォォォンッ!!


 轟音と共に、ミスリルの巨体が上半身と下半身に泣き別れし、後方の城門ごと粉砕された。


『キャイン!?(旦那、それ世界最高硬度の金属……!)』

「硬い? ああ、豆腐よりは手応えがあったな」


 もはや俺の肉体強度は、物理法則の彼方にあるらしい。


 ***


 城内は荒れ果てていたが、最深部の『玉座の間』の裏に、手付かずの書庫が隠されていた。

 埃を払い、魔導書を漁る。

 俺には魔力がないため、以前なら読むことすらできなかったが、今は違う。

 空気中の瘴気を網膜に集中させることで、暗視どころか文字の解読まで可能になっていた。


「……あった。『次元連結魔法陣』の設計図」


 やはり、先代の魔王は人間界への再侵攻を画策していたらしい。

 床には、その実験の名残である複雑な魔法陣が刻まれていた。


「起動には『王級の魔力』が必要、か」


 通常、魔力ゼロの俺には起動できない。

 だが、今の俺の体内には、魔力を凌駕する高密度の『瘴気エネルギー』が渦巻いている。


「理論上、エネルギーであることに変わりはない。……ガソリン車にジェット燃料を入れるようなもんだろ」


 俺は魔法陣の中央に立ち、足の裏からエネルギーを流し込んだ。

 手加減はしたつもりだ。

 ほんの少し、蛇口をひねる程度に。


 ブゥンッ!!


 瞬間、魔法陣がまばゆい赤黒い光を放った。

 城全体が地震のように激しく振動する。


「おっと、入れすぎたか?」


 バチバチバチッ!

 空間が悲鳴を上げ、魔法陣の中央に小さな「亀裂」が生まれた。

 その亀裂の向こうに、一瞬だけ――青い空と、白い雲が見える。


 人間界だ。


「よし、繋がった――」


 パリンッ。


 喜んだのも束の間、魔法陣を刻んだ床石が、エネルギーの過剰供給に耐えきれず粉々に砕け散った。

 同時に、空間の亀裂もシュンと閉じてしまう。


「……あーあ」


 俺は頭を掻いた。

 出力(パワー)がありすぎて、ハードウェア(魔法陣)が耐えられない。

 繊細な魔力操作の代わりに、暴力的なエネルギー量で無理やりこじ開けるしかないが、それにはこの廃墟の設備では脆すぎる。


「もっと頑丈な『門』を自作するか、あるいは……空間そのものを素手で引き裂けるくらい、俺自身が強くなるか」


 後者の方が早そうだ、と俺は直感した。

 幸い、ここは魔界。

 経験値(モンスター)も、栄養(瘴気)も無限にある。


 俺は書庫の窓から、広大な魔界全土を見渡した。


「待ってろよ、父上、弟よ。俺が帰るその日まで……せいぜい『王位継承戦』とやらを楽しんでいてくれ」


 俺はニヤリと笑うと、怯えるポチに跨った。


「行くぞポチ。まずは手始めに、この辺りの『四天王』とかいう連中に挨拶回りだ」


 帰還へのカウントダウンが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る