祝福
◆◆◆
ロルフが私とテレーゼを聖騎士団の所属に願い出て、ツェーザルさまはそれを了承したため、私たちは聖騎士団で働いている。
掃除や炊事をしているのだけど、洗濯物だけは各自やることになった。訓練で汚れているから、という理由だったけれど、きっと私たちの時間のことを気にしてくれているのだと思う。
聖騎士団の人たちは優しくて、私たちが掃除をしていると「ありがとう、助かる」と声をかけてくれたり、作った料理は「おいしいよ」と褒めてくれたり、ひとりの『人間』として接してくれた。
正式に聖騎士団所属となったから、ロルフと話す機会も増えた。彼はいつも私の話を興味深そうに聞いてくれて、一緒にいると呼吸が楽にできる。
『まるで刷り込みね』
テレーゼとも気軽に話せる仲になり、彼女にロルフとのことを話すと、そんなことを言った。
聖騎士団の人たちとも仲良くなって、とても居心地のいい時間が数ヶ月続き、このままレクラム家と縁が切れる――そう、思っていた。
◆◆◆
「イルマ!」
神殿のお祈りの時間。静寂さを破る大声が響いた。
その声には聞き覚えがあり、私は思わず身を竦ませる。
「こんなところでなにをやっているんだ! 家に帰るぞ!」
ズカズカと入り込んできたのは、父だった。怒りで青筋を立てている父は、私の手首を強く握りしめて引っ張った。
「離してください!」
「黙れ! ずいぶん探したんだぞ!」
ざわざわと神殿内が騒がしくなる。騒ぎを聞きつけた聖騎士団が現れ、父を抑えて私を解放してくれた。
「イルマ! あんたどういうつもりなの!」
義母と義妹も来ていたようで、憤怒の声が耳をつんざく。
「あんたがいないと、私のストレスが発散できないじゃない!」
――え?
私につらく当たっていたのは、ストレスを発散するためだったの?
じゃあ、母の形見を売ったのも、そのため?
「……静粛に。ここは神殿。神の領域ですよ」
ツェーザルさまが、聞いたこともないような低い声で、父たちに向けて言葉を放つ。
「なんなの、この人。これはレクラム家の問題よ!」
「よってたかってひとりを責めたてるのは、家の問題とは思えませんね」
冷たく鋭い声が義妹を刺した。その声の主は、ロルフだった。
「……家の問題とおっしゃるのなら」
そして、私の手を取って、掴まれた手首に視線を落とす。はっきりと痕が残っている。こんなに強い力で私のことを握るなんて……。実の父だというのに私が痛みを感じるのをなにも思わないようだ。
「俺が彼女を娶れば、俺の問題にもなりますよね」
「――ロルフ?」
なにを言っているの? と目を瞬かせると、ロルフはそっと私の頬に手を添える。
「ツェーザルさま。証人になってくださいますか?」
「……構いませんよ。それが一番でしょう」
「ロルフ・ハールトークとして、イルマ・レクラムに求婚します」
「は、ハールトーク!?」
びっくりして目が丸くなる。
ハールトーク公爵家は、この国で知らない人はいない公爵家だ。
そんなに身分の高い人がなぜ、聖騎士団の団長をしているの? と思いつつも、そんな人から求婚されて困惑の色が浮かぶ。
「ダメよ! お姉さまの結婚相手なら、もう見つけているもの!」
「ば、バカッ! ハールトーク公爵家の別名を知らないのか!」
「血も涙もない冷血、と言われていましたね。……それは、あなたたちのほうが相応しい気がしますよ」
パチン、とロルフが指を鳴らすと聖騎士たちがレクラム家の人たちを神殿から追い出しにかかった。
私はぽかんとその光景を眺めているだけ。
「……イルマ嬢?」
「あの、私に求婚したのは……その場限りの……」
「いえ、本当に夫婦になりたいと思っています。あなたが許してくれるなら」
「えっと、その……よ、よろしくお願いいたします」
私がロルフさまに頭を下げると、パチパチと拍手の音が聞こえた。
そうだ、ここは礼拝堂。お祈りの時間を邪魔してしまったのに、みんな私たちを祝福してくれている。
「今日はごちそうを用意しなくてはいけませんね」
「ツェーザルさま……」
「祝い事は、みんな一緒のほうが楽しいでしょう?」
「……はい!」
神殿の人たちは私とロルフさまのことを祝ってくれた。
虐げられていた私がこんな幸せを手に入れることができるなんて、レクラムけにいたときは思っていなかった。
――逃げ出してよかった。私のことを蔑ろにする人と離れてよかった。
ロルフさまを見上げると、彼と視線が交わる。
「それじゃ、今度俺の家に行って報告しないとね」
「……大丈夫でしょうか。私……」
「大丈夫だと思うよ。イルマはイルマのままで」
パチン、とウインクをするロルフさまが、キラキラしているように見えるのはなぜ?
……ううん、もっと前から輝いているように見えていたけれど、今日はもっと輝いて見える。
「イルマ?」
「……ロルフと出逢えよかったって、心の底から思います」
「……神殿で立ち尽くしているイルマを見たときは、びっくりしたよ」
そんなに驚くような出会いでは、なかった気がするけれど……?
「こんなに澄んだ瞳の人がいるのかって」
それは、私もロルフに思ったことだった。
私たち、感性が近いのかもしれない。
きっとロルフとの関係は、私が生家で築けなかった絆で結ばれるだろう。
みんなから祝いの言葉を聞くたびに心がポカポカと温かくなって、満面の笑顔が咲いた。
【短編】祝福された関係 秋月一花 @akiduki1001
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