やりがい

 皿洗いも得意だ。レクラム家でよくしていたから。


 私が洗っている姿を見て、テレーゼが「もしかして、家事が得意ですか?」と問われた。


「はい。一通りの家事はできます」

「……それは、頼もしいですね」


 一瞬、テレーゼは言葉を詰まらせた。私のことはツェーザルさまから聞いたと言っていたから、その辺の事情も知っているのかもしれない。


「では、この場が終わったら、今度は掃除をしましょうか」

「ぜひ!」


 にこっと笑って首肯すると、テレーゼも目を細めて笑った。


 大量の皿を洗い終え、今度は神殿の掃除を始める。自分なりに手際よく掃除をしているつもりだが、彼女の目にはどう映るのだろう?


 もっと効率のよい掃除の仕方があるかもしれないけれど、私はこの方法しか知らないのよね。


「イルマ、テレーゼ」

「あ、ロルフ! おはようございます」

「おはようございます、ロルフ卿」

「ふたりともおはよう。早速掃除をしているとは……」


 ロルフが声をかけてきたので、朝の挨拶を交わす。


「神殿のほうも人手不足なのは知っているけれど……」

「あ、わかりました。聖騎士団ですね」

「ああ。どうも俺らは家事が苦手でね、散らかりまくっているんだ。力を貸してくれると嬉しい」


 聖騎士団の人たちは、そんなに家事が苦手なの? 疑問を抱いていると、ポンとテレーゼが私の肩に手を置いた。


「でしたら、私たちがあとで掃除しますので、話を通していてください。それに、イルマはまだ正式に所属が決まっていませんので……」

「そうか、じゃあ大司教に要望を出しておこう」


 テレーゼとロルフが話している内容に首をかしげる。要望を出すとどうなるのだろう、と。


「それでは、ここの掃除が終わったら聖騎士団のほうへ移動しますね」

「頼んだ。イルマ、初日だし、無理はしないようにな」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 どういたしまして、と笑顔を浮かべるとロルフは去っていく。


 その後ろ姿を眺めながら、「優しい方よね」とテレーゼがぽつりと言葉をこぼした。


「イルマの様子を見にきてくれたと思いますよ」

「……え?」

「だって、聖騎士団の訓練場は、ここから正反対の場所にありますから」


 思わず目が丸くなった。だって、まさか……昨日出会った私のことを、そんなに気にかけてくれるとは……。


「さ、張り切って掃除を終わらせて、聖騎士団のほうへ行きましょう」

「は、はい!」


 そうして私は、テレーゼと一緒に神殿の一角を綺麗に掃除してから、彼女の案内で聖騎士団が住んでいる場所へと移動した。


 テレーゼの言葉通り、正反対の場所に聖騎士たちが暮らす寮があった。


「……なんだか、どんよりしたように見えるのは、なぜでしょうか」

「なぜでしょうね……」


 寮の門の前にいる門番にテレーゼが声をかける。ロルフが本当に話を通していたようで、すぐに門が開いた。


「……あの、中を見ても、引かないでくださいね」


 門番からこそっと伝えられて、私とテレーゼは顔を見合わせる。


 そんなことを言われるなんて、いったい中はどうなっているのかしら。


 ほんの少しの好奇心と不安を抱きながら、私たちは寮の扉を一緒に開けた。


「……これは……」

「掃除のしがいがありそうですね」


 テレーゼが絶句し、私は辺りを見回してグッと拳を握った。だって、本当に掃除のしがいがあると感じたから!


「うーん、家事が苦手というか、家事をしていない感じがしますね……」


 廊下からもう、散らかっている。あちらこちらに衣類が落ち、瓶が落ち、ホコリも溜まっている。空気が悪く、換気もまともにしてなさそうだ。


「……とりあえず、聖騎士のみなさんが帰ってくるまで掃除しましょうか」

「そうですね……がんばります」


 私とテレーゼはまず、床に落ちているものを拾うことから始めた。そうしていると、今日が休日の聖騎士たちが「なんだなんだ」と私たちを見ていることに気づき、テレーゼが手招く。


「ロルフ卿に頼まれてきました。あなたたち、今日休みの人たちですよね? 手伝ってくださいますよね?」


 笑顔なのに圧があるテレーゼの迫力に負けて、聖騎士たちはこくこくと何度も首を縦に振った。


 集めてずっしりと重くなった洗濯物や、空き瓶をそれぞれの場所に持って行ってもらったり、はたきを持って高いところのホコリを落としてもらったりと手伝ってもらった。私たちよりも背が高いから、助かるわ。


 掃除は上から、が基本だものね。


 訓練中の聖騎士たちが帰ってくるまでのあいだに終わったのは、廊下の掃除だけだった。


 だけど、あのものすごく散らかった廊下がピカピカになったのは達成感がある。


「すげー!」

「廊下めっちゃ綺麗!」

「え、ここ本当に俺らの寮?」


 聖騎士たちの感嘆の声が耳に届き、私とテレーゼは視線を合わせて微笑みあった。


 こんなに喜んでもらえるなら、やりがいがあったというものよ。


「本当にお疲れさま。大変だったろう?」

「お休み中の聖騎士の方々に手伝っていただきました」

「ああ、散らかしたのは聖騎士全員だから、構わないさ」


 ロルフが労りの言葉をかけてくれたので、少しだけ会話した。


「明日からは部屋の掃除もしますからね、見られたくないものはきちんと隠して、ゴミはちゃんと捨ててくださいよ!」


 パンパン、とテレーゼが手を叩いて支持すると、「イエスマム!」と大きな声で返事をする聖騎士たちの姿が見えて、くすくすと笑う。


 明日はどんな一日になるのかしら。

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