第33話 甲斐の虎、動く!


1548年1月中旬


三河から戻った翌日。


柴田勝家は、東海道を制圧した圧倒的な戦果を携え、主君・織田信長の待つ末森城へと凱旋していた。


​【末森城・大広間】


​「面を上げよ、権六。」


​上座に座る織田信長の声は、かつての「うつけ」の面影を消し去り、天を突くような覇気に満ちていた。


その前には今川義元が差し出した名刀、そして松平家からの服属を誓う書状が並んでいる。


​「今川、松平を屈服させ、戦わずして手中に収めたか。……貴様の生み出した『未来のことわり』これほどまでに戦の形を変えるとはな。」

「はっ。すべては将来の天下人たる織田三郎信長様のため。今川義元の嫡男に加え、実母・寿桂尼も人質として連れて参りました。これにて東海道の憂いはございませぬ。」


​信長は不敵に笑い立ち上がると、勝家の側に下りてきて両肩を強く掴んだ。


「良いぞ権六!貴様こそが我が織田の最強の矛だ!……だが、満足してはおらぬのであろう? 次はあの『山』か(ニヤリ)」


​「御意。三郎様の尾張・東海地方にとって、国境を面する甲斐の虎を野放しにするは危険。荒ぶる虎を檻に入れて見せましょう。」


​アイリス『ノッブ、最高に興奮してるわね!最近不安定なノイズが消滅したわ。せめて武田を滅ぼすまでは、今のまま安定していてもらいたいわね……』


『ああ。いざとなれば濃姫様とお市、2人の力を借りてでもノイズを消すしか無い……第六天魔王が前面に出過ぎると、この男はする……』


上機嫌の信長に、勝家自らが持参した鰻を捌き、特上うな重を献上。


「義弟よ!共に食すぞ。」


「はっ!」


『いつまでもこの良好な関係が続くことを願うわ……』

アイリスの呟きが波乱の幕開けを予感させる………



​【甲斐・躑躅ヶ崎館】


​一方、その「山」の向こう側では、不穏な静寂が支配していた。


​武田晴信(信玄)

「……あの今川義元が戦わずして膝を突いたか……」

重厚な床几に腰を下ろす武田晴信の周囲には、武田軍団の精鋭「武田四天王」の山県昌景、馬場信春、さらに実弟の武田典厩信繁ら、最強の重臣たちが揃い踏みしている。


​山県昌景

「……今川の安宅船を粉砕したという『雷火』。それが事実なら駿河湾沿いの今川防衛線は、紙同然に破られたのでしょうな。」


​馬場信春

「左様。ですが御屋形様、柴田勝家の軍勢は、海のみならず陸でも『一里先から城を崩す』と。もはや我らの知る兵法では測れませぬ…」


​武田信繁

「兄上……この柴田勝家という男、織田の家臣でありながら、その知恵は日ノ本の外から来たとしか思えません。戦えば、武田の血が絶える恐れも……」


​家臣たちの慎重な言葉を、晴信は鋭い眼光で遮った。


​「案ずるな。兵法とは理よ。柴田に理があるならば、我が方にもそれを上回る『山』の利がある。……昌景の赤備えに儂が授けてやろう。鉄の雨の中を駆け抜け、勝家の喉元を食い破る術をな。」


​晴信は立ち上がり地図上の「駿府・今川館」に、その強靭な拳を叩きつけた。


​「面白い。織田の覇王・柴田権六。キサマの『未来』と、我が武田の『伝統』……どちらが天の理に適うか、決着を付けてくれよう。春の雪解けと共に動くぞ!」



1548年4月


​【戦艦尾張丸・艦橋】


​勝家はアイリスと共に、駿河湾沖合いから甲斐の動きを監視していた。


​『勝家くん、武田軍の主力……山県も馬場も、信玄の号令で一斉に動き出したわ!彼らの「負ける気がしない」という強烈な自負、ドローンの解析でもビシビシ伝わってくるわよ!』


​『そうだ、それでこそ甲斐武田騎馬軍団だ。最強の布陣で来るがよい。アイリス、例の「空飛ぶ目」で、信玄の寝所まで筒抜けにしてやれ。』

『ふふふ、任せて!ワタシのデータベースは、まだまだお宝がいっぱいって言ったでしょw

「神の視点」からは、虎も猫同然よ!』



□◆□◆□



​【アイリスの叡智:偵察用ドローン『八咫烏(ヤタガラス)』】


​勝家が「空飛ぶ目」と呼ぶそれは、アイリスがもたらした未来の超技術を勝家にして製造した「ドローン型無人偵察機」である。


​四つの回転翼を備え、漆黒の炭素繊維で成形されたその機体は、戦国時代の空においては文字通り「空飛ぶ死神」であった。


高高度(約1万メートル上空)から地上の動きを捉える超高性能光学カメラと、赤外線サーモグラフィを搭載。


​昼夜を問わず

敵陣の配置、兵糧の備蓄量、さらには陣幕の中にいる将の顔ぶれまでもが、数里離れた戦艦尾張丸のモニターへと鮮明に映し出される。


『アイリス……狼煙のろしや物見、忍びの伝達・報告に頼る戦国武将にとって、空からすべてを監視されるという事態は、絶望そのものだな。』


『そうね。もはや無力感に打ちひしがれ立ち直るのも容易じゃないでしょ。精神的打撃を与える、既にいくさは始まってるのよ。』



それは神の視点を持った柴田勝家による、一方的な【管理】であり、情報戦の圧倒的アドバンテージに他ならない。


これにより柴田軍の優位性は、不動の物となっていきます。

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