第32話 三河の落日、そして覇道の夜明け


1548年 1月中旬


三河湾・佐久島沖


戦艦尾張丸1号艦橋


アイリス

『勝家くん、会談場所に指定した岡崎城跡地付近の松平軍勢(心の声)は約2,100人。ノイズは聞こえないわね。』


『ああ、正確には2,095人だな。戦う気力は完全に潰えて動きは無しだ。肝心の松平広忠は「臣従」か「切腹」かの瀬戸際で心が揺れている。』


『ワタシは2000年代の日本人も知ってるけど、同じ民族なのにこの時代、切腹とか考えるなんてね……ホント面白いというか、時代環境で人間って、ここまで違うのね。』


​『そうなのか?俺はこの時代しか知らぬが、家の存続とは命を懸けて守るもの。己の自害でそれが許されるのなら、迷うことなど無いがな。』


『幼少期にワタシと出会っている勝家くんですらこれだもの…戦国武将って怖いわよwで?どうするの広忠は?』


『広忠を殺すのは容易いが、竹千代の教育を考えれば、生かして織田の家臣として組み込むのが上策……アイリス、軍用トランシーバーを広忠の陣営に置く事は可能か?』


『ん~~助命したり、殺害したりでは無いから、直接干渉とまでは言えないでしょ。もしダメならキャンセルされるだけ。その時はゴメンね。』


『頼んだ。』



織田家のナンバー2

柴田勝家との​会談を前にして悩み抜いている松平広忠。


その広忠の前に突然、虚空から軍用トランシーバー(大型通信機器)が現れた!


「な!!!何だ??」


するとノイズ無しの大音量で、勝家の冷徹な声が聞こえた!


「松平広忠殿。織田軍の元帥・柴田勝家である。これ以上の無駄死にを竹千代は見たくないはず。三河の民の命、貴殿の決断1つで決っする!

その赤い場所を押しながら話せば、儂に声が届く。」


広忠「なんと!柴田勝家元帥は妖術使いであるか?」

「今川の遠江・駿河も電撃戦で落とした。三河全域もすでに掌握しており、松平軍2,095人のみが完全に孤立している。それを踏まえて返答せよ。」



​広忠の手は、見たこともない黒い鉄の塊、通信機を前にして、小刻みに震えていた。


背後の家臣たちは、空から現れた異形の器を「神仏の御業か、はたまた悪魔の誘いか」と恐れおののき、誰一人として近寄ることもできない。


​広忠は勝家の言葉にある「竹千代」の名を聞き、覚悟を決めた。震える親指で指示された赤いボタンを押し込む。


​「……柴田殿……聞こえるか。松平次郎三郎広忠である……我が軍勢の数まで正確に言い当てるとは、貴殿は真に千里眼をお持ちのようだ……」


​戦艦尾張丸の艦橋で、勝家はフッと不敵な笑みを浮かべた。


​「千里眼ではない。未来の叡智だ。広忠殿、三河の武士は強勇で知られるが、この『鉄の雨』の前には無力。

今川義元すら膝を屈した今、お主が意地を通せば、三河の地は草木も残らぬ焦土と化すぞ!」


​広忠は絶句した。

海上を見れば真っ黒な煙と、巨大な鉄の城のような影が見える。


今川の誇った安宅船を一撃で粉砕したという「雷火」の噂は、すでに三河にも届いていた。


勝家は続ける。

​「尾張で健やかに育っている竹千代に、故郷が焼け落ちる煙を見せたいか?」


​広忠は「竹千代」の名を聞き、心臓が跳ね上がるのを感じた。


愛しき我が子は、すでに尾張の柴田勝家の元で人質となっている。


​「……我が首一つで、三河の民と家臣、そして竹千代の命を救うてくれるか?」


​「否。貴殿には生きて、織田の盾として働いてもらう。竹千代は俺が責任を持って次代の麒麟へと育てる。」


「麒麟!織田の盾とな……」


「貴殿は東三河の渥美あつみ郡の地で、織田の家臣としてその基盤を支えるのだ。切腹などという安易な逃げ道は許さん!」


​アイリス『勝家くん、広忠の戦意が完全に消失したわ。我が子の命と、圧倒的な科学力の前に、古い武士のプライドは砕け散った。もう勝負は決まりね。』


​広忠は深く息を吐き、トランシーバーを握り締めたまま、天を仰いだ。


「……承知した。三河松平家、これより織田家元帥・柴田勝家殿の軍門に降る。全軍に武装解除を命じよう。」


この瞬間、東海地方の軍勢は全て織田の傘下へと組み込まれた。


今川に続き三河の雄・松平までもが、戦わずして勝家の「技術と恫喝」の前に屈したのである。



​□◆□◆□



​【尾張への凱旋】


​勝家を乗せた尾張丸は悠然と海を渡り、尾張へと帰還した。


那古野の地では大衆が、偉大な勝利をあげた英雄の凱旋を喜び、多くの人々が称賛する。


城に戻ると元気に庭を駆け回る幼き竹千代の姿があった。

「勝家様!お帰りなさいませ!……父上は、三河はどうなりましたか?」


​勝家はその小さな頭を、大きな手で包み込むように撫でた。


​「竹千代、喜べ。お前の父は賢明な判断を下した。これからは織田と松平、共に手を取り合ってを創るのだ!」


「新しい世!」

​竹千代の瞳は、勝家の肩から吊り下がる柴田銃と、沖に浮かぶ巨艦への好奇心に満ちている。


​「竹千代、時代は変わる。刀と弓の時代は終わり、鉄と火薬、何よりも『知恵』が天下を制する。」


​「が……はい! 勝家様!」


​その力強い返事に​勝家は再び、大きな手で竹千代の頭を撫でた。


​『アイリス、この子供に、これから「織田の統治」を徹底的に叩き込むぞ。』


​アイリス『いいわね!「思想の刷り込み」という名の人質……これこそが心から服従させ、未来を支配する最強の戦略だわ、勝家くん!』


日ノ本の形が柴田勝家という男の手によって、猛烈なスピードで作り替えられていく。


​『アイリス。次は……あの山を越える準備を始めるぞ。』


​『ふふふ、任せて。ワタシのデータベースは、まだまだお宝がいっぱいなんだから!』


​勝家の思考の先には既に次なる標的、甲斐の山々がそびえていた。


三河・遠江・駿河を制した今、甲斐の武田信玄との激突は避けられない様である………


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