第29話 柴田家の休日・大晦日~新春


​1547年大晦日から1548年元旦


那古野城の台所は、戦場さながらの熱気に包まれていた。


​「いいか! 鶏肉は二度揚げだ! 外はカリッと、中はジュワッとな! これがアイリス直伝、未来の叡智『カラアゲ』の極意だ!」


​「「「はっ! 師匠!!」」」

​エプロン姿の柴田勝家が、20人の料理人軍団を叱咤する。


アイリスの脳内知識と技術を「直接移植」された勝家の料理技術は、もはや時代の枠を超えていた。


​【大晦日の豪華ディナー:柴田流・和洋中フルコース】


柴田勝家の居城に漂うのは、戦の血生臭さではなく、香ばしくも濃密な「肉」の焼ける匂いであった。


織田家元帥閣下の任を務める

​その「軍事無双」の頂点にある男が、今宵、静かに饗宴の席を設けていた。



​【前菜】


​尾張産 雄牛の炭火炙り~摺り下ろし山葵ワサビと溜り醤油の雫~


先ず​膳に運ばれたのは、当時は「薬喰い」として禁忌の範疇にあった牛肉である。


尾張の豊かな草地で、勝家自らの命により厳選され、肥育された若牛。


その最も柔らかな赤身を、炭火の強火で表面だけを一気に焼き上げている。

​赤褐色に焼き固められた外側と、中心に残る妖艶なほどの紅。


西洋の「ローストビーフ」を彷彿とさせながらも、それは紛れもなく日ノ本の「炙り」の極致であった。


​「さあ皆のもの食すが良い。これはただの肉ではない。天下を治めるための『力』である」


添えられた山葵は、清流で育った瑞々しい根を直前に摺り下ろしたもの。


その鼻を抜ける鋭い刺激が、牛の芳醇な脂の甘みを引き立て、溜り醤油の深いコクが後を追う。



【揚げ物】


秘伝タレのジューシー唐揚げ


ズワイガニのクリームコロッケ



​【メイン】


アイリス秘伝・肉汁溢れる手捏てごね煮込みハンバーグ(目玉焼きを添えて)


尾張産・極上天然 うなぎの鰻重



【麺類】​


完熟トマトと帆立のスパゲッティ・ポモドーロ



【デザート】​


黄金の濃厚プリン


苺のショートケーキ



【その他・柴田風おせち料理】

(とてもその他扱いして良い料理では無いが…)


(伊勢海老の姿焼き)

腰が曲がるまでの「長寿」を願う縁起物。


(鯛の姿焼き)

「めでたい」に通じる縁起物の魚。大ぶりなものを贅沢に八尾焼き上げる。「八方末広がり」として正月の食卓に華を添える。


(鮑(あわび)の煮貝)

不老長寿の象徴とされる高級食材。柴田家では磯煮として食している。


(いくら・カニ)

こちらも重箱に彩りを添える高級食材。いくらは(子孫繁栄)を願い、カニは(幸運を招く)とされる。


(ブリの照り焼き)

ワカナゴ、イナダ、ワラサ、ブリと名前が変化する出世魚。

立身出世の意味を持ち、酒、みりん、醤油にからめて作る照り焼きがお市姫の推し。


(黒豆・数の子・田作り)

「まめに(勤勉に)働き、まめに(元気に)暮らせるように」との願い。


数の子は卵の数が多いため(子孫繁栄)を象徴。


片口鰯を肥料にした田んぼが豊作だったことから(五穀豊穣)を願う。 


(紅白かまぼこ)

紅は(魔除け)、白は(清浄)を意味する、お市姫の大好物。


(栗きんとん)

黄金色を金塊や小判に見立て(金運上昇)を願う縁起物。柴田風は上白糖をタップリ使い、お市姫の好きな甘めの仕上がりとなる。


さらに酒をたしなむ、柴田家の住込み護衛若手武士(約20人)や、奉公人(男女30人以上)のつまみとして


新鮮採れたて魚介類の刺身盛り合わせが豪華に並び


海老チリ・猪肉生姜焼き・レバニラ炒め・麻婆豆腐・海老&キスの天ぷら等々が、保温の利くビュッフェサーバーに盛付けられていた。


周囲の奉公人達が

「不思議な金物の器」と驚くサーバーから自分で取って食すスタイル。


「お肉って美味しい~~(トロ~ン)」


「早苗ちゃん!肉じゃないの!薬よ!く・す・り(笑顔)」


「柴田様の屋敷に奉公して初めて生魚を食べたが、醤油を少し垂らすと、こんなに美味いとは驚きだった!」


「ほんとよねぇ~給金と一緒に頂ける醤油と砂糖。これが家では大人気で、甘辛タレの日は盛り付けたオカズが争奪戦になるの(笑)」


女中にも十分に気を遣う勝家。尾張で若い女性の働き口、断トツ一番人気は、柴田家奉公人である。



□◆□◆□



「わぁ~~すご~い!こんな大きな鯛の塩焼きが八尾も!!お市、食べきれな~い。」


「(笑)お市よ、正月のおせち料理は1人で食べるものではないぞ…(苦笑)」


天真爛漫な美少女お市姫に、勝家も苦笑いだ。


十分メイン料理にもなりえる、前菜の尾張産 雄牛の炭火炙りを食しながら、お市姫は満面の笑みだ。


​「勝家さまぁー! お市、これだーいすきっ!!」


「そうか。お市には山葵はまだ早いから、砂糖醤油の甘辛ソースにしておいた。」


戦国時代、肉類は禁忌とされているが、庶民は山で猪を狩ると「薬」と称して食べていた。


近江の牛肉もその類いで、宴席で1頭潰して食べる時は、「薬食い」として滋養をつけていたのである。


「わ~いカマボコだ!!紅白並んでキレイだね勝家さまぁ~」


お市姫の大好物カマボコ。紅白1切れずつ小皿に取り分け、幸せそうな表情で口に運ぶ。


そして生まれて初めて食べる、黄金の濃厚プリンと苺のショートケーキ!!幼い(8歳)お市は理性を失いかけた(笑)


「あーーーーーなんてことを…勝家さまぁ~お市は、お市は……」


「ど、どうした!お市(汗)」


「……お市は生まれ変わったらプリンになってショートケーキを食べまくりまふ……」


アイリス『理性を失いかけたじゃなく、失ってるわね(笑)』


勝家「ハハッ。。。。。。」

無邪気に笑うお市に、勝家は苦笑しながらも、その小さな頭を大きな手で優しく撫でる。



饗宴の夜は更けていく…

この(平和な休日)の裏で、遠江と甲斐国境にはコンクリートの壁が築かれ、駿河の海に蒸気戦艦尾張丸が浮かんでいる。


​『お市。お前がいつまでも笑っていられる世を、俺が創ってやるからな。』

美食の香りに包まれた那古野城から、覇王・勝家の次なる一手が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る