第2章・覇王と第六天魔王

第27話 高天神城陥落と三河の黄昏


​1547年(天文16年)12月上旬


​婚礼の熱狂冷めやらぬ中、柴田勝家は再び軍装に身を包み、天竜川を越えた。

目指すは遠江の要、高天神城。


『この城は難攻不落、まさに遠江の要だ。ここを落とせば今川の領国は駿河を残すのみ。アイリス!電光石火の攻撃で城もろとも全てを焼き尽くせ!!』


『オーーー!!!とでも言うと思った……勝家くん……どう見ても無人よね……何か音を感じる?人間さえ居れば心の声が必ず聞こえるのよ。』


『分かってるさ……駐留軍9千人に加え殿(信長)から6千人もの援軍を貰ったのに……まさか、もぬけの殻でしたとは言えるか!』


『確かに(自走 臼砲きゅうほう試作品)のテストもしたいわよね。』


『ああ、蒸気戦艦・尾張丸も射程距離が倍増した新型キャノン砲の艦砲射撃を今か今かと待っている…どーすんだこれ!』


『切り立った崖に守られた天然の要塞。私たち以外で城に誰も居ないなんて知らないわ。やるだけやりましょう。』


『遺体が無いんだが…流石にこれの解決方法は無理だろ?骨さえ消滅するなんて殿は納得しない…』


『う~ん!そうだ!朝比奈 泰凞やすひろが築城した掛川古城があるわ。海岸から約14km射程圏内ね。そこには何故か人間の心の声がするでしょ?』


『ああ…音の内容から判断すると、おおかた盗賊どもだな。39、いや44人か……気配隠蔽の巧みな5人は、雪斎を狙撃する時、先鋒・次鋒にいて逃走した武将達だろ。』


『その後、根絶やしにされた12,000人にも加わっていないって、悪運強いわよね…良いんじゃない!焼き尽くしても骨が残るわよ。』


『殿へは残党を殲滅しましたで通るな。高天神城は俺の忍び衆から無人との報告があった故に、駐屯地として無傷で手に入れましたって事にしよう。』


『それね!掛川古城・砲撃前に無線は入れてよ。あの魔王、益々勘の鋭さが増している。』


『もちろんだ、報告は密にせねば機嫌が悪くなるからな…最近濃姫様のおかげでノイズが落ち着いた…

それとアイリス、魔王魔王言うな。お市の実兄で俺の義兄、今や織田家の殿だぞ。』


『彼がで勝家くんが。どちらが乱世を制するか?でしょw』


『…別に敵対していない、織田の一門衆だぞ。まったく、んじゃ連絡してくる。即座に全軍で高天神城の接収及び掛川古城艦砲射撃に移る!』


『アイアイサー!』


『?意味は知らぬが短い返答、戦場では良いな!』


『気に入ったみたいね!でも戦場ではラジャー!が使えるかな、了解って意味よ』


『ほお、ラジャー!か。小気味良い言葉だな、では行ってくる!』


『ラジャー!』



尾張丸10隻から放たれた榴弾が掛川古城を瓦礫の山に変え、野盗の群れは全滅。


勝家率いる1万の軍勢は遠江の要・高天神城を無血で占拠した。


残る5千の兵を三河との国境、旧東海道の境川東岸へと駐留させた勝家。


沖合いには尾張丸5隻を浮かべ、松平家や他の三河国人衆の動向に目を光らせている。

「でかしたぞ勝家!さすが織田家の元帥閣下である。これで暮れを待たずして、遠江全土は織田家の版図へと組み込まれた!亡き父上も言うておったが、御主こそ織田の守護神だ!」


無線での勝利報告に上機嫌の信長。だがそこで苛烈な指示が出た!


「良いか勝家。農民は足軽としても使えるから構わぬが、武士は臣従など認めぬ。1人残らず遠江から叩き出せ!もしくは一族郎党、根切りにしろ!」


「臣従を認めない?!殿、そうなると今後の遠江治世に人がまったく足りませぬ…

読み書き算木さんぎ(ソロバンの原型)の出来る者を尾張から派遣して貰えますか。」


「ぐっ……尾張とて旧岡崎城を含む西三河一帯を占領したばかりだ。逆に柴田家から内政の才がある武士を、借り受けたいところだ!」


「う~む、弱りましたな…現状、三河を東西から織田が挟んでおります。松平広忠も生きた心地がしないでしょう。

岡崎城は焼かれ西三河を失い、嫡男竹千代は我が手にある。臣従させませぬか?」


「……年内は現状のまま布陣して兵を動かすな。勝家、蒸気高速船で年末1度尾張に戻れるか?」


「はい。半月で高天神城に多少手を加え、滑空砲と自走 臼砲きゅうほうにて守りを磐石にします。

駿河国境は尾張丸3隻で大井川河口を監視中。今川義元も動けません。末森への登城は今月25日でいかがでしょう?」


「それで構わぬ。遠江は甲斐の武田とも国境を接しておる。高天神城の備え励め!」


理不尽が服を着て歩いている様な信長だが、まだ13歳。


一気に領地が広がり勝家に内政の人手不足を指摘され、少し不安な気持ちが走っていた。



​【三河・松平広忠の窮地】


一方、東西を織田に挟み込まれた形となった三河国。


松平広忠は更地と化した岡崎城跡地に、織田家の軍旗がはためくのを遠目に見ながら、焼け残った寺院に本陣を置いていた。


​「重臣の7割を失い、兵力は3千に満たぬか……西三河に織田信長、東の遠江は柴田勝家。もはや逃げ場はない……」


​広忠の胸中を占めるのは、勝家のもとで人質となっている嫡男・竹千代のことだ。


「竹千代は権六(勝家)に懐いていると聞く…今川を頼った結果がこの惨状だ。東三河に遠江を失った太守(今川義元)。駿河1国の兵では織田には勝てぬ、ならば、いっそ…」


三河国の終焉が刻一刻と迫ってきているのであった…

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