第25話 巨星落つ、そして遺言
1547年(天文16年)8月
遠江
曳馬城を跡形もなく粉砕し、天竜川西岸までを版図に収めた柴田勝家のもとに、尾張丸からの緊急入電が響いた。
「たった今…大殿・織田信秀様……
急ぎ戻った信長ですら、死に目に間に合わぬ急変!早すぎる最期であった。
──織田信秀の最期──
高熱にうなされる意識の混濁したなか信秀は、ついたて越し(感染予防)に枕元に集まった長男・信広、そして弟の信光に、絞り出すような声で遺言を遺した。
「三郎(信長)は……まだ幼い。儂が死ねば、もしや『魔王』に魅入られ人が変わったように豹変するやもしれぬ。それだけが……気がかりだ……」
信秀は震える手で、そこにはいない勝家の名を呼んだ。
「権六(勝家)を呼べ……あやつの持つ『理外の力』そしてあの忠義。信広、信光……何があろうと、権六と共に三郎を支えよ。三人で……この尾張を、織田を頼む……」
「父上!」「兄上……」
事切れそうになる中、最後の力を振り絞り、信秀は外交への警戒を口にした。
「美濃のマムシ(道三)には心を許すな。あれはいざとなれば、濃姫すら切り捨てる…そして…甲斐の武田信玄…ハアハアハア(汗)…あの男だけは格が違う。北の守りを……固めよ……」
最後に、信秀の瞳に力が宿った。
「権六とお市の婚姻……直ちに行え。あやつを三郎の義弟とし、織田の一門として繋ぎ止めよ。ハアハアハアハア(大汗)そ…それが……織田が天下を平らげる、唯一の道じゃ………権六………頼んだぞ!!」
それが、尾張の巨星・織田信秀の最期の言葉となった。
信秀が死ぬ間際に発したその声は、心の中でも叫びとなり勝家とアイリスは感知していた。
勝家『大殿様………』
アイリス『織田信秀公…史実より5年も早いなんて…もしやバタフライ効果?本来のタイムラインを木っ端微塵に破壊した歴史改変の歪み?……』
『尾張の、いや弾正忠家の勢力が強くなりすぎたからなのか?アイリスの言う、本来1552年に死ぬはずだった大殿が、環境変化からくる激務で1547年に死んだ?……もしそうなら、俺は、俺は……(涙)』
『深く考えちゃダメ!可能性の話をしただけよ…それより支度して、信長の思考波長が変化している。』
『ああ俺も感じているが何故だ?昼間の荒々しさが消えている…』
また尾張丸からの緊急入電が届く。
「殿(信長)より柴田勝家様へ。至急、古渡城へ戻り、大殿の葬儀へ参列せよと。尚、天竜川駐留軍は動かさず、今川勢へ睨みを効かせるだけで良いとの事です!送れ」
「あい分かった!高速船にて直ぐに向かう。以上だ!」
『きっと曳馬城を消滅させ、1万以上の今川兵を全滅させたのが嬉しいのね…信長の脳波が歓喜している…』
『…実の父親が
『さあ行って。ここは私が残るから。直接干渉は無理だけど、今川の軍勢だけに豪雨を降らせたり、海を大シケにしたりの邪魔なら可能だから…信秀公の亡骸に最後の御挨拶してきて。』
『済まんな助かる…兵を100人だけ連れて行く。では行って参る』
──盛大なる葬儀──
葬儀は、織田家の威信をかけた空前絶後の規模で行われた。
勝家とアイリスがもたらした富により、織田家の財力は史実の10倍以上。万単位の銀が投じられ、熱田の街を埋め尽くすほどの弔問客が訪れた。
信長は、高速輸送船で遠江から駆けつけた勝家を、万雷の拍手をもって迎えた。
「権六!曳馬城を文字通り『地図から消した』そうだな!カカカw!親父殿もあの世で喜んでおるわ!」
「はっ!ありがとう御座います……」
父の死を悲しむ素振りも見せず、狂ったように笑う信長。だが勝家だけは、泣き喚く信長の本心を捉えていた。
『親父どの!馬鹿野郎!何故だ!儂は今年13歳になったばかりだ!まだまだ親父どのから教えて貰わねばならぬのに!何故死んだ!!(号泣)』
『……ふう安心した……悲しみを悟られない様に、強がっていたのか……大丈夫、儂がずっと支えて織田家を守る!』
だが勝家は、信秀の遺体との最後の対面と、悲しみに暮れる幼い婚約者、お市姫を慰める事に気を奪われ、重大な変化を見逃していた。
信長の瞳の奥に本人すらまだ気付かない、父・信秀が危惧した「豹変」の兆しが、鋭く冷たい光となって宿っていたのである…
「権六。。。ごめんなさい。。勝家様、父上が父上が(泣)」
勝家は、不安で震えるお市の手を握り、燃え上がる香煙の向こうに自らが歩むべき「覇王への道」を静かに見据えていた。
葬儀の最後に
勝家が急遽プロデュースした異例の儀式が行われた。
それは古臭い仏教の形式を排し、整列した100丁の「試作型ライフル」による一斉射撃!
空砲による弔砲である。
漆黒の軍装に身を包んだ信長が、棺の前で静かに、けれど苛烈な宣言を放つ。
「……親父殿!見ててくれ…この咆哮こそが、織田家が世界を飲み込む産声である。必ずや日ノ本を統一し、親父殿の墓前に報告すると誓う!!』
香煙の向こう、信長は冷徹な「魔王」の眼差しで天を睨む。
その隣で勝家は、お市の震える手を握り直し心に誓った。
この歪んだ歴史の果てで、織田家を真の天下へ導くのは、己が振るう「理外の力」のみであると───
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