第21話 東海に蠢(うごめく)影


​1547年(天文16年)7月


尾張に(蒸気)という未知の力が芽生え始めた頃。


三河と尾張を欲している駿河の今川館には、張り詰めた緊張感が漂っていた。


​上段に座すは、今川家当主・今川義元(28歳)。公家文化を嗜み白粉を塗ったその奥底には、冷徹なまでの野心が宿っている。


その脇を固めるのは、義元の母にして(女大名)と畏怖される寿桂尼。


そして今川の脳(ブレイン)とも言える怪僧・太原雪斎(51歳)である。


​「雪斎師匠。尾張のうつけが蝮の娘を娶ったと。これで美濃と尾張は、一枚岩になるという事か?」


義元の問いに雪斎は、静かに数珠を回した。


「……信秀め、やりおる。婚姻による同盟は古来からの常道。

織田の地政学的に言えば、道三を味方につけ背後の憂いを取り除く。我ら今川の西進を阻む事に全力を挙げられる…これは大きな壁となりまするな。」


​寿桂尼が鋭い視線を投げかける。

「それだけではない。尾張から流れてくる噂じゃ…煙を吐く巨船、それに積まれたキャノン砲とやら…光り輝く街灯に、次々と生み出される新しき品々…どれを取っても南蛮や明の品を凌駕しているとの事じゃ…」


太原雪斎

「信秀と信長の背後にいるあの(柴田権六勝家)なる若輩が、得体の知れぬ力を生み出していると言われているが、肝心な武器弾薬などに関しての情報が掴めておらぬ…何としてもそこを探らねばなるまいて…」


​今川家臣団の重鎮、朝比奈泰能、岡部元信らも意見を述べる。


朝比奈「清洲で傭兵働きをしていた者から直接聞いた話ですが、尾張統一戦においての弾正忠家の火力は、信じられぬほど苛烈であったと驚愕しておりました。」


岡部「特にキャノン砲の前では、籠城など意味は持たぬと言っておりましたな。炸裂する砲弾を1分間に4~5発も撃てるらしいです。」


寿桂尼「…そんな物が船に積まれておるとは…よもや織田は海から駿府を狙っては来ぬよな?駿河の海は大丈夫なのですか??」


その問い掛けには重臣たちも押し黙る。大丈夫な訳が無いからだ。


朝比奈「婚姻同盟を結んだ今も、木曽川越しに稲葉山城に向けキャノン砲の配備は継続しております…すべて火力奉行の柴田勝家の指示…推して知るべしかと…」


岡部「射程距離8km…もしそれが海から襲ってきたら…当家に限らず、防ぐ術を持つ国は有りませぬ……」


寿桂尼「8kmじゃと?……雪斎殿。早急に対策を打たねば御家存続の危機でおじゃりまする。」


雪斎​「……まずは三河の松平を先鋒として尾張に攻め込ませる。それでキャノン砲と柴田銃の威力を見極めます。」


今川義元「師匠。松平とて織田の火力は噂で聞いておろう。そう簡単に動くかのお…」


「織田に人質として奪われた嫡男『竹千代』を救いだすとの大義名分にて、松平広忠を動かしましょう。

拙僧に5,000お貸し下され。後詰めとして後ろから松平軍を急かし、戦いの模様を督戦致します。」


義元「さすが師匠。松平が敗れたら三河にそのまま居座り、呑み込んでしまう算段でしょうか?」


「ほう太守殿、成長なされましたな。織田とぶつかるにしても今川家の領国、遠江・駿河の地を戦場にするのは避けたい。

我らは三河の東端に布陣します故、遠江西端の国境防備増強を直ぐに始めて下され。」


岡部「では、其も宰相殿に御供致します。」


「いや岡部は駿河で織田の南蛮船に備えてくれ。今回は遠江衆の朝比奈泰能・飯尾定宗・井伊直盛等で三河へ入る。泰能、副将を頼むぞ。」


朝比奈「はっ!お任せ下さい。」


義元「……師匠。松平が敗れる可能性は高い。今川と織田の直接交戦になることを考え、駿河からも1万連れて行ってはどうか?」


静かに首を横にふる太原雪斎

「太守よ、それはなりませぬ。織田も隣国三河との局地戦ならいざ知らず、遠江まで戦局を広げる考えは薄い。敵地への遠征・駐屯が如何に大変か、信秀なら理解しておる。」


義元「しかし師匠…もしや…死ぬ気では御座らぬであろうな?」


『成長したな芳菊丸(義元の幼名)よ…だが儂が食い止めねば駿府が危ない…』

「ははははは、何を馬鹿な!此度は松平と織田、双方の戦力を磨り減らすのが目的。火力を見極めたら即、遠江へ兵を退きまする。拙僧も無理はせぬ。」


義元「……であれば良いが」


寿桂尼「。。。。。。。。」


今川家にとって、尾張は格下の(虎&うつけ親子の国)であったはずが、今や不気味な巨大国家へと変貌しつつあった。



その頃

甲斐の山奥では、若き天才・武田晴信(後の信玄・26歳)が、三ツ者(忍び)や歩き巫女(偵察員)からの報告に眉をひそめていた。


「尾張で鋼が大量に作られているだと……? 諏訪の神も驚くような話だな。」


​さらに、伊勢の北畠家、近江の六角家等も織田・斎藤の婚姻同盟と尾張の火力に警戒心を高めていた。


織田家と勝家が放つ(未来の光)は、周辺諸国の梟雄たちの目を覚まさせ、巨大な包囲網へと繋がりつつあったのである。




日本女子フィギュア銀・銅・4位おめでとう

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