第20話 濃姫、未来を食らう
1547年(天文16年)6月
翌朝。那古野城に差し込む朝日は、昨日までの美濃のそれよりもどこか眩しく感じられた。
帰蝶の前に現れた信長は、昨日とは打って変わり、機能的な半袖のシャツにスラックスという軽装であった。
「目覚めたか。今日から帰蝶の事を『濃姫』と呼ぶ。美濃から来た、高貴な姫ゆえな」
「濃姫……左様でございますか。」
帰蝶──濃姫は、その響きを噛み締める間もなく、信長に連れ出された。
まず彼女が目にしたのは、6月の尾張に広がる整然とした田園風景だった。
「……何ですか?あの巨大な水車は?小屋付き?それに、あの奇妙な道具は?」
そこには勝家が設計した自動揚水機が回り、計算し尽くされた灌漑施設が水を運んでいた。
「今までの水車を巨大化した水車小屋だが、驚くのはまだ早いぞ濃姫よ。次は『織田の胃袋』を見せてやる。」
連れて行かれたのは、巨大な食品工場と、芳醇な香りを漂わせる酒造所。
(土足厳禁)のクリーンな室内で、白衣を着た民たちがシステマチックに加工品を作り上げ、透明なガラス瓶に琥珀色の酒が詰められていく。
「これが、民の営みだというのですか……?」
さらに巨大な火柱を上げる高炉。
轟音と共に流れ出す真っ赤な鉄の奔流に、濃姫は腰を抜かさんばかりに驚愕した。
「さあ、歩き回って腹が減っただろ。飯にするぞ。」
信長が連れて行ったのは、織田家直営の和食処の個室。
「権六が次々と新しい料理を授けておる。尾張で大人気だぞw」
「まあ!権ろ。。。柴田様は料理も作れるのですか?!」
「作れるどころか、料理人達から(師匠)と呼ばれるほどでなw」
「……その様な武将、美濃にはおりませぬ……」
「そうだろう尾張とておらぬはwさて何を食べても美味いのだがな、今日はその中でも1番人気のある魚料理を頼んでおいたぞ。」
「それは楽しみです。海の無い美濃では、尾張や伊勢から朝の漁で揚がった魚介類が塩漬けされ、夕方に届けられる事もありますが、日常では川魚がほとんど…」
「そうか、
「鰻?!……殿、もしや泥臭い下魚の『ウナギ』ではありませぬよね?」
濃姫の顔色が、あからさまに曇る。武家の、美濃国主の姫として下魚を食せとは侮辱しているのか、と。
そこへ運ばれてきたのは高価そうな重箱と吸い物椀に、箸休めの漬物が載った1膳。
『?ウナギが重箱に??』
何とも言えぬ表情の濃姫に
「いいから開けてみろw」
信長が蓋を取るように促す。
重箱の中に鎮座する、艶やかなタレを纏った鰻重の出現に驚く濃姫。
「これは?!これがウナギ?」
「ハハハまあ食べてみろ。お濃が知っているウナギとは別物だ!」
濃姫は渋々ながらも箸をつけ、その一切れを口に運んだ。
その瞬間!
「っ!? ……ふわふわ……と、とろける……それとこの甘辛い香ばしさは、一体……!?」
一口、また一口と箸が止まらない濃姫。
「カカカw、気に入ったか。権六が編み出した秘伝のタレと蒸し、それに泥抜きの技法だ。」
美濃の蝮の娘は、信長の説明に相づち一つ打つ余裕すら無く、今や一介の少女のように、鰻重の虜となっていた。
「殿……世の中にこんなに美味しいものがあるなんて……私はもう尾張以外では、生きていけません。」
「カカカwそうか。濃姫よ、同じ鰻でも手の加え方ひとつで下魚が極上の一品に変わる。
これは料理だけでは無いと権六は言っている。改善して工夫せよともな…まこと勉強になる男だ。」
馬車に乗りしばらく走ると潮の香りが鼻をくすぐる。
「うみ?海に行くのですか?殿。」
「ああ、今日の最後は船だ。これを見せねば、権六に怒られるからなw」
信長が最後に彼女を導いたのは、熱田の港。
そこには、極太な三本のマストを掲げ、量産体制に入った巨大な南蛮船(ガレオン船)が、夕陽を浴びて黄金色に輝きながら、悠然と停泊していた。
「お濃、これが織田の力だ。この船で、俺と権六は日の本どころか、世界の果てまで奪いに行く。」
濃姫は、ただただ呆然と、その巨大な船体を見上げるしかなかった。
「殿、濃姫様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
「権六ご苦労。約束通り2人で来たぞ。例の【動力システム】を、濃に説明してやれ。」
勝家は巨大南蛮船の心臓部船底へと招き入れた。
「これは???」
立ち並ぶ鋼鉄の円筒と複雑に絡み合う銅の管。そこからは、生き物の吐息のような白い蒸気が、一定の律動を持って吹き出している。
「濃姫様…これが織田の力の源泉にございます。」
案内する勝家の声が地下室の壁に低く響く。
アイリス
『まあ、初期の商用蒸気機関が実用化されたのは1712年。蒸気船となると、1807年のロバート・フルトンが成功させた(クラーモント号)が世界初。260年も未来の技術、説明しても理解が追い付くかしら?』
勝家『凄いという事を実感してくれれば良いんだ。』
「濃姫様。この鋼のピストンが動くたびに、1000人の人夫にも勝る力が生まれる。我らはこの『蒸気力』を用いて、巨大な船を動かす事が可能!甲板に張ってある帆は敵の目を欺くためです。」
濃姫にとって信長と勝家は、時代そのものを塗り替えようとしている、神なのだと認識したのである。
『神様相手には勝てないわ。もう美濃も父上もどうでも良い…大事なのは…夕飯も鰻重が食べた~~~い』
お後が宜しいようで。。。
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