第16話 黄金の尾張、運命の姫

1546年(天文15年) 秋


稲葉山城


美濃の蝮・斎藤道三は、先月行われた尾張国内の戦で目にした、織田弾正忠家のキャノン砲撃と連射可能な柴田銃の火力を頭に浮かべていた…


『今までの大筒や種子島とは全く違う…あの様な兵器、堺や伊勢、近江の商人に聞いても知らぬと言う…南蛮貿易をしている奴らが知らぬ物を、どうやって手に入れたのだ…

今にして思えば…林佐渡守一派が粛清された頃から尾張は、どんどん不気味な国になった…』


マムシは自分の記憶をさかのぼる…



──1540年(回想録)──


​「…信じられん…これはまことであるか?」


美濃の蝮・斎藤道三の手は、報告書を握りしめたまま震えていた。


目の前には実質、織田信秀が支配する津島湊から、忍び達が持ち帰った尾張の(産物)が並んでいる。


​透き通るような(ガラスの器)、泥臭さを一切排除した芳醇な(醤油)、そして……


「なんなのだ?この純白な粉は……うん?!塩!!」


道三が口にしたのは、尾張名物の塩である。この時代に不純物ゼロの塩など、大名でも見る機会は滅多にない。


上忍「殿…今朝炊いた米に御座います。すっかり冷めきっていますが味見のほどを…」


「…どれ………先に口にしろ…」


「…はっ!」


忍びの中でも最上級の実力を持つ上忍。それが包みから取り出した握り飯を、半分に割り先に食べさせる道三。


「悪く思うな…毒味は基本じゃ」


「役得で御座います(笑)それだけ美味いので(笑)」


渡された米をあっという間に平らげ、道三が持つ残り半分を物欲しそうに見ている上忍w


「うむむ冷めた飯を美味そうに食べおって(笑)しかも純白、まさに白米じゃな…」


尾張で収穫されたブランド米(尾張米)。来年から尾張以外にも売り出す予定らしい。


「おおお、これは………」


思わず唸る道三。

噛みしめるほどに甘みが溢れ、美濃の米とは明らかに格差がある。


「冷めてもこれ程の美味さ…炊きたてはどうなるのじゃ?」


「殿様がそう言われると思いまして、台所番に米5kg渡しております。今宵は炊きたてを召し上がれるかと。」


「1俵(60kg)買って来なかったのか?…ああ済まぬ…そんな重い物を持って関所破りは無理じゃな…(苦笑)」


「申し訳御座いません、但しこれを。」


今度はふところから割れない様、大切に巻いた包みを差し出した。


「ふむ、先程のガラスとやらの瓶に詰めた……透明な水?薬なのか?」


「先程の極上米から造った清酒にて。」


「!なっ!酒か?!澄み酒とな!これまた滅多に見られない物を…どれ」


「毒味なら半分以上頂きますが?」


阿呆あほう1口で十分だ!」


「そんな殺生な…殿様せめて1/3を…」


「ええい黙れ(笑)ほれ、湯飲み一杯じゃ。武士の情けである(笑)」


上忍と2人で飲み干した清酒…あまりにも美味すぎて言葉が出てこない……


「さ、下がってよいぞ…」


「いやいや殿様!まだ報告の途中で。。。」


「残りは明日でよい、ご苦労であった下がれ!」


「………はっ!」


「…まったく…おい、これで城下で好きに遊んで参れ。」


清酒の三合瓶を恨めしそうに見つめる上忍に、道三が気前よく(100万円)の銭を渡す。


「これは忍びの扶持(給金)とは別の心遣いじゃ、では下がれ。」


「はっ!かたじけなく」


上忍が下がった後に小姓へ、誰も部屋に通すなと厳命し、尾張の極上の清酒を極上の塩をつまみに飲む斎藤道三。


『これは飛ぶように売れる。5年もすれば尾張国は手に負えない国力を持つであろう……2人の守護代は雑魚ざこだ。問題は戦に滅法強い尾張の虎(織田信秀)か…どうする…』



翌日

上忍の報告を全て聞いた道三。既に信秀との戦は危険な賭けだと悟った。


上忍の報告


​「尾張では柴田勝家とやらの指揮により『コンクリート』なる石のように固まる土で道が固められ、特別な履物を装着した馬車が猛スピードで物資を運んでいます。織田弾正忠家の領地だけ、時が数百年進んでいるようでございます…」


「那古野城に隣接する工廠では、高炉なる物による鉄鋼生産の試験が成功したと、鍛冶師達が騒いでおりました。柴田勝家と申す者が先頭に立ち、鉄の大量生産が可能になると。」


「百姓達に酒を振る舞い、聞き出したのですが、柴田勝家なる者が導入した(セルトレイ栽培)と呼ぶらしいのですが…」


「苗代で大切に育てられた苗を、定規を用い(正条植え)とやらで整然と植えるそうで。間隔が保たれ陽当たりが良く、稲の生育が凄まじいとの事」


「他の農家では、イワシの油粕を配布し、大地に活力を注ぎ込む肥料に回し、単位面積あたりの収穫量が5倍に増量したと。それを指導したのも柴田勝家です…」


「これは探り出すのに苦労したのですが、来年より柴田勝家の通貨改革で、偽造不可能な織田貨幣を発行するとの事。それで経済を完全に掌握する野望かと…」


「あの塩は、流下式枝条架りゅうかしきしじょうか塩田で作られた、砂浜に触れぬ不純物の無い真っ白な塩。やはり始めたのは柴田権六勝家です…」


「それ以外に、新しき構造の船と新型兵器や火薬等々も作っているらしいのですが…申し訳御座いません…厳重過ぎる程の警備にて…潜り込めませんでした…」


斎藤道三

​「三郎信長…いや、その影にいる柴田権六勝家という男。全ては奴だな…妖術の使い手か、それとも……」



──1540年(回想録)終了──



1546年(天文15年) 秋


道三は窓の外を睨んだ。

国境・木曽川の対岸に並ぶ大筒の列が、美濃の喉元に突きつけられた刃のように光っている。


「やはり柴田勝家であったか…後の祭りじゃ、もはや武力で抗うは愚策。帰蝶を…わしの娘を嫡男信長へ嫁にやり、あの技術を美濃へ引き込む。それ以外に道は無いか。」

その背中には降伏を余儀なくされたマムシの娘・帰蝶の輿入れの算段をする美濃国主の苦労が滲み出ていた。

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