第8話 勝幡城、虎の咆哮と第六天魔王の雑音


​1534年


柴田権六・9歳


​翌朝。権六は父・義勝と共に、尾張西部の巨大な要塞、勝幡城の城門をくぐった。


三方を湿地と川に囲まれたこの城は、津島湊の莫大な富を背景に、異様な熱気を孕んでいた。


​だが、権六を苦しめていたのは城の威容ではない。

​『……うるさい。何だ、この頭に直接響く不協和音は……!』


​城の中心部へ近づくほど、昨日感じた『異質な思考の残響』が強くなる。


それは言葉ですらなく、原初的な破壊と創造が混ざり合ったような、巨大なだった。


​『勝家、しっかり!脳内にを張るわよ!……ったく、生まれたばかりの赤ん坊がこんな「覇気」を垂れ流してるなんて、歴史のバグもいいとこだわ!』


​アイちゃんの叫びと共に、ようやく頭痛が引いていく。


案内された広間には、すでに昨日会った織田信光、そしてその上座には───


​「柴田義勝、ならびに嫡男・権六。面を上げよ。」


​腹の底に響くような、圧倒的な声音。


そこに座していたのは、24歳の若き当主、織田弾正忠信秀であった。


​その思考レベルは……驚愕の『レベルB:覇王の覚醒』。


父・義勝の思考が恐怖で真っ白(レベルF)になる中、権六は信秀の瞳を正面から見据えた。


『…ほう。義勝が連れてきたこの小倅。わしの威圧を浴びて瞬き一つせぬか。昨日の信光の報告通り、ただの子供ではないな。』


​信秀は手元の扇子をパシリと叩くと、氷のような笑みを浮かべた。


​「義勝。この度の清洲の変、貴殿の功績は大きい……だが、わしが聞きたいのは結果ではない。貴殿が何故『清洲の北庭のネズミ』が動くと知っておったか、その一点だ。」


​「そ、それは……その……」

​義勝が絶句する。その時、傍らで見ていた信光がニヤリと笑い、権六を指差した。


​「兄上。この権六、昨日儂が訪ねた折にも、実に見事な立ち振る舞いを見せましたぞ……おい小僧。お主の『ごっこ遊び』が、図らずも織田家を救ったことについて、どう思う?」


どうやら最強弟の信光は、昨日あれからしのびを総動員して、ごっこ遊びを突き止めたらしい。


​アイリスの声が脳内に弾ける。


『来たわ!ここがプロデュースの正念場よ!謙遜しすぎず、かと言って「知ってます」とも言わない。を演じるのよ!』


​権六は問い掛けた信光では無く、織田信秀の目を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


​「滅相もございません。私は村木と『言葉の知恵比べ』をしていただけにございます……ただ、世のことわりというものは、時にネズミが虎を救うこともあるのではないかと、そう思った次第にございます。」


​「理、だと?」

​信秀の瞳が細まる。その瞬間、かなり離れた奥の部屋から赤ん坊の泣き声が響いた。


そして権六の視界が歪むほどの凄まじい『思考の波動』が広間を駆け抜けた。


​信秀の脳内を、権六の能力が捉える。


『……こやつ、わしの目を逸らさぬばかりか今、吉法師の泣き声に反応したか……? 凡夫には聞こえぬ「何か」を、この小僧は聴いているのか!?』


​信秀は立ち上がり権六の目の前まで歩み寄ると、その小さな肩を掴んだ。


​「権六。お主を、吉法師の側に置こうと思う。」


​「……はい?!」


​「柴田家の嫡男、弾正忠家への人質としてではないぞ。織田の未来を担う吉法師の『知恵と武の刃』としてだ。どうだ!儂と共に尾張を統一して天を掴む気はあるか?」


​信秀の思考は、疑念から(強烈な所有欲)へと変わっていた。


9歳の少年に、24歳の虎が牙を剥きながら笑いかけている。


『アイリス……これ断ったら、物理的に首が飛びそうな迫力なんだが……どうしよう(汗)』


​『大・成・功! 最高のマーケティング(人を惹きつけるための演出)ね!……でも勝家くん、これでもう後戻りはできないわよ。アンタ、今この瞬間に「魔王の教育係」に内定しちゃったんだから!』

『教育係か…確かに他人とは違う強烈なには、興味がある。吉法師がどんな成長を遂げるのか?間近で見届けてやるか。』


『決まりね、勝家くん!』



織田​信秀の直感は、権六の内に眠るを確信した。


『生まれて直ぐに感じた吉法師の異能にも、勝るとも劣らない実力を持っている。この二人を組ませれば……もしや!尾張一国では狭すぎるやも知れぬぞ!』


「柴田義勝!聞いての通りじゃ。そちの嫡男・権六を我が嫡男・吉法師の教育係に任命する!孫三郎(信光)例の物を」


「はっ!!義勝これを取らせる。」


信光のふところからズシリと重い巾着袋が、父・柴田義勝の前に置かれた三方さんぽうに載せられた。


タップリと金が入っているのは明白であり、しかも3袋である。


「事の経緯はどうあれ、結果として儂の命が救われた。金3袋では全く足りぬ。」


信秀は三方の上に載った金だけでなく、庭に積まれた米俵を指差した。


「義勝、清洲のネズミどもを退けた礼だ。切米きりまい百石、さらに取らせる。早速お主の屋敷へ届けさせる故、家臣らに振る舞うが良い。」


「はっ、ははぁぁーーー」


深々と頭を下げる義勝に止めを刺す言葉が発せられた。


「最後に儂からの感状である。柴田家は織田弾正忠家にとって【特別な功労者】に相違無い!!」


信秀が自らの署名である花押かおうを記した感状を渡す。


当時の武士にとってとは命の次に重い、非常に価値のある文書。


普段は実直な父・義勝が、震える手で感状を受け取り


「柴田家の家宝にいたします……」と涙ぐんでいる…


​周囲が感状に感激する中、権六はと言えば


『紙切れ1枚で人を死なせるほど働かせるとは、武士の名誉…プライドと言ったか?それをくすぐりながらの支配システム…恐ろしいものだ。』

と冷静に分析していた。



生まれて数日の吉法師と、9歳の権六。後に天下を震撼させる主従の縁が、勝幡城の熱気の中で結ばれた。

​信秀に気に入られたことで、権六の立場は(一国人の嫡男)から【織田家枢密の若衆】へと跳ね上がりました。


​アイちゃんの次なる計画

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