第5話 アイちゃんのインテリ武将プロデュース


柴田権六・9歳


​村木との朝稽古を終え、汗を拭う権六の脳裏に再びあの賑やかな声が響いた。


​『はいはーい!休憩終了!それじゃ「最強インテリ武将プロデュース」第一弾、いってみよーー!』


​『……またお主か。現れるのは夜じゃなかったのか?……インテリだか何だか知らぬが、まずは何をすれば良いのだ。』


​『今の勝家は、ただ情報を「聞いてる」だけ。それじゃただの地獄耳よ。情報戦のプロはネタを「編んで」、相手を「転がす」の。』


『……ネタを編んで転がすとな?』


『そうよ。これを専門用語で悪意アリアリの情報操作(ディスインフォメーションやプロパガンダ)って言うんだけど……ま、勝家にはまだ早いから、まずはからね!』


​権六の目の前に、光り輝く半透明の板(ウインドウ)が現れた。

そこには、先日清洲で捉えた(暗い声)の主たちの相関図が描かれている。


​『勝家、アンタが掴んだ「織田信秀暗殺計画」。これをパパ(柴田義勝)に話すのはが高いって判断したでしょ?それは大正解よ!!』

『うむ。子供の戯言たわごとと一蹴されれば、せっかくの情報が無駄になるからな。』


​『そう!だから、パパに「教える」んじゃなくて、パパが「自分で気づいた」と思わせるの。これが()の基本!』


​権六は書斎で独り、厳しい顔をして文机に向かう父・柴田義勝の姿を思い出す。


​父は、柴田家の屋台骨を支える実直な武士だ。その思考は常に「織田家の安定」に向けられているが、生真面目ゆえに卑劣な謀略というを直視しきれない危うさがある。


​『父上は……真面目すぎるのだ。守護代家への忠義と、台頭する織田信秀様への恐怖との間で、心が千々に乱れておる。』


​権六には父の頭の中から漏れ出す

『……もはや戦は避けられぬのか。だが同族で血を流せば、今川や斎藤に尾張を食い荒らされるぞ……』

という苦渋の声がはっきりと聞こえていた。


​『でしょ?だからパパを助けてあげるの。勝家、今夜パパが寝所に下がる前に、廊下で村木くんと「ごっこ遊び」をしなさい。内容は「ネズミが虎を噛むお話」。』


『ネズミが……虎を?』


​アイちゃんは、権六の脳内に不思議なイメージを流し込んできた。

​『そう。「清洲のネズミたちが、津島の虎(信秀)を狙って罠を張ってるんだよ~、怖いね~」って、子供らしく無邪気に遊ぶの。』


『ふむ。確かに尾張で虎と言えば織田信秀公だと誰もが知っている。』


『パパの耳にその単語が届けば、脳内にある「公式情報」と勝家の「キーワード」がガッチャンコして、勝手に疑念が膨らむってわけ!』


​『……お主、女神のくせに随分と小細工に長けておるな……』


​『失礼しちゃうわね!これはへのアプローチよ。さあ、今夜がチャンス。パパの思考レベルは現在、迷いレベルE、今なら簡単に揺さぶれるわ!』


​権六はアイちゃんの提示した奇策に呆れつつも、その論理の鋭さに舌を巻いた。


​『面白い……人の心に直接言葉を投げ込むのではなく、言葉を拾わせて心を動かすとは……昨日までのオレには思い付かなかった……これが策略の基本初手というわけか。』


​『その通り!夜になったら村木くんを呼んできてね。アンタの初演技、アイちゃんがしっかりしてあげるからね!マッスル!』

​権六は不敵な笑みを浮かべながら「何やらおもしろい」と唸った。無邪気な子供の遊びが、尾張を揺るがす謀略を暴く刃となる。



アイちゃんの導きによる初の実戦【心理誘導】が今夜、静かに幕を開けようとしていた。

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