第3話 清洲の城下と(暗い声)の存在
1534年(天文3年)
柴田権六・9歳
権六は9歳になり、父に連れられて清洲城へ出仕することが増えた。尾張守護代の居城である清洲城下は、活気と同時に
城下に出ることで、権六のテレパシーの受信範囲は飛躍的に拡大する。
彼は、町人・商人・職人・そして数多くの武士や農民たちの思考を、同時に受け取れる様になる。
町人の声『織田弾正忠家の者たちが最近、横暴だ。守護代様は何をしておられるのか……』
商人の声『津島湊の交易は、弾正忠家が握ってから利益が増した。守護代に付くのはもう古い…』
武士の声『隣の家臣団は、守護代側につくか、弾正忠家につくか、どちらが得か悩んでおる。かくいう
権六は清洲の武士団が、裕福な織田信秀(弾正忠家)の経済力と武力を無視できなくなり、日和見主義に陥っていることを痛感した。
彼らは、忠誠心ではなく(利益と生存)を天秤にかけていたのである。
この頃になると権六の能力は、ある特定の思考パターンを持つ者たちを、まとめて管理するのが可能となっていた。
そして武士団の中にも、その様な集団がいることに気づいた。
『う~ん、これは非常に暗い声だ…どんな気持ちを持てば、ここまで暗い声になるんだ?恐怖心と忠誠心が混ざり合った、低く真っ暗な声…憎悪と権威が大きく前に出ている…相当なストレスだな。』
この4年間で権六は、次々と勝手に脳内に出てくる意味不明な単語、例えば
ストレス→精神的重圧→プレッシャーも同義語。
リスク→危険または恐れ・懸念
チャンス→好機、機会
等々を日本語に自動変換できる能力と
『今日はいい天気ですね。』と日本語を思い浮かべるだけで、
『It’s a beautiful day,isn't it?』と今まで読み書き会話をした経験の無い、言葉が涌き出て来るのだ。
『英語すなわちEnglishと呼ぶ言語…何故自然に覚えられるのか?最初は気持ち悪かったが、まあ損にはならぬだろう。』
テレパシーの受信範囲も具体的に示すと、5歳の頃は半径50メートル以内がやっとであったが、飛躍的に拡大した今は半径550メートル、しかも初対面の相手の名前や年齢まで把握できる様になってしまった…
『9歳になった日に鑑定レベルA(55/100)の文字が出てきた??レベルAはアルファベットと呼ぶらしいが?高いのか低いのか…よく分からん。』
『まあ他の人間は体力Hがほとんど、たまに武将でレベルGを見る程度。鑑定レベル持ちは皆無だ…オレは高レベルだと思うけどな…』
さて先程の暗い声の持ち主たちは、織田大和守家(守護代側)の筆頭家老の配下にある武士たちである。
権六は、その筆頭家老の思考を屋敷外の遠距離から追ってみた。
筆頭家老『…弾正忠信秀め。あの男が生きている限り、守護代家の安泰はない。いかにして信秀を合法的に排除するか……』
家老『…守護様(斯波氏)の権威を盾に、あの男の首を取らねば守護代家は終わりです……』
『こいつらの思考は、(守護代家の権威を守る)という公的な大義と、(織田信秀を殺す)という私的な憎悪で塗り固められている。
今の尾張国が内乱など起こせば、今川・斎藤・三河松平の草狩り場となり、
権六は、これが清洲織田家内部で進行している、最も危険な(謀略)であることを確信した。
そしてこの極秘情報を、父に伝えるべきか悩む…
「このままにはしておけぬ…とは言え9歳の子供の言葉を、父上が信じるだろうか?ましてやその情報源が、『人の心の中の声』であるなどと、どう説明すれば良いのか?」
悩んだ挙げ句に権六は、この(暗い声)の存在を胸の内に秘めた。
『致し方あるまい…いま下手に動くと変人扱いされ
世に出る時は一気にかけ上らねばならん…と頭の中で申す者がおる…気がする…』
そう決断した権六。この経験は、情報の取り扱いと沈黙の重要性を深く教え込むことになった。
翌朝
大きな決断を下した権六の枕元に1冊の本が置かれていた。表裏とも粗末な本だが、中身を開き驚愕する!
「なっ!!なんと!!」
『うっ!不味い、家臣が来る』
「若!若!どう致しました?」
間髪いれずに障子を開ける若武者。
「村木!何でもござらぬ…戦の夢を見ただけじゃ…」
「そうですか。で?勝敗は?」
「父上が敵の大将首を取ったぞ!」
「おお!吉兆吉兆!正夢になるよう槍の朝稽古と参りましょう!」
「おお分かった。身支度整え直ぐに参る故、庭で待っておれ。」
「はっ!御支度、手伝いまする。」
「よい。先ずは
「はっ!では御免!」
『ふぅーまったく俊敏な奴だ(苦笑)どれどれ』
その本は【マニュアル】と書かれていた。
村木を下がらせた権六は、自分にしか見えぬはずの概念が、なぜ実体となってここに在るのか?
震える手でその表紙を撫で、頁を捲った刹那!
「うっ!!!?」
脳裏に響いたのはこれまでの(雑音)とは一線を画す、陽気な女の声だった……
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