第20話
② 出る人、出ない人
この店には、
メニュー表に書かれていないものがある。
ルール、というほど
はっきりしたものではない。
通称、
気まぐれ提供。
誰にコーヒーが出るか、
というだけの話だ。
ホットブラックは、
基本的には平等に出る。
少なくとも、
オーナーが来るまでは。
オーナーが現れると、
空気が一段、変わる。
それだけで十分なのに、
彼は、笑いながら言った。
「今日も、
スペシャルコーヒー作るからね」
その瞬間、
コーヒーミルの音が入ってくる。
低くて、乾いた音。
卓の音とは、少し違う。
彼は、
二人の常連客のうち、
片方にだけ
特別なコーヒーを出した。
もう一人には、
何もない。
声もかけない。
理由も言わない。
ただ、
出さない。
出されなかった客は、
一瞬だけカップを見て、
それから何も言わなかった。
文句もない。
冗談もない。
まるで、
それが最初から
そう決まっていたかのように。
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