第17話

⑤削られやすい人


削られやすい人は、

目立つ人じゃない。


声が大きいわけでも、

態度が悪いわけでもない。


むしろ、

ちゃんとしている人だ。


空気を読む。

流れを止めない。

無理をしない。


上がりが安い時は、

早く終わらせる。


振り込みそうな時は、

一段引く。


卓を壊さない選択を、

無意識に選び続ける。


そういう人が、

一番残る。


二着。

三着。

四着。


どこにも引っかからない位置で、

何度も終わる。


大きく勝たない。

大きく負けない。


だから、

誰の記憶にも残らない。


チップは、

たまにしか入らない。


事故を待たないからだ。


事故を期待される卓では、

それは評価されない。


「無難だね」

「安定してるね」


そう言われる。


褒め言葉のようで、

次につながらない言葉だ。


削られる側は、

怒らない。


怒る理由がないからだ。


ルールは守っている。

点数も合っている。


ただ、

少しずつ

持っていかれる。


疲労。

集中。

自信。


それでも、

その人は残る。


空気を壊さないから。


壊さない人が、

一番使いやすい。


だから、

一番削られる。


本人だけが、

それに気づく。


気づいた時には、

もう

やめる理由も

怒る理由も

見つからない。


この店では、

そういう人から

静かに

減っていく。

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