第12話

⑤ ノリと音の文化


「社員H、

何で教えないの?」


オーナーは、

こちらを見ないまま言った。


「で、

Nさんは何で聞かないの?」


社員Hと、私。


「すみません……」


声は、同時だった。


オーナーは続けた。


「牌は、

まずこの手順で拭く。

点棒はその次。

サイドテーブルは後」


順序を、

一つずつ並べる。


「それから、

何でタオルを捨てた?」


私は、

一瞬だけ考えた。


その拭き方も、

その順序も、

もう直せない。


そう思ったけれど、

言えなかった。


代わりに、聞いた。


「拭いて捨てる方が、

清潔感あって

効率良くないですか?」


一拍あって、

オーナーが言った。


「どこのお嬢ちゃん??」


私は、言葉を選び直す。


「その雑巾は、

繰り返し使うんですか?

におい、すごいですけど」


オーナーは、

少し声を上げた。


「は?

何言ってるの?」


「雑巾の使い方、

小学校で習ったでしょ?

洗って使うのが常識でしょ?」


私は言った。


「おしぼりで、

解決しませんか?

前の店では、

そうやりましたが」


オーナーは、

すぐ返した。


「おしぼりって

一つ十円するんだよ?」


「それがチリも積もって、

いくらになるか

想像つかないの?」


私は、

何も言わなかった。


雑巾のにおいが、

本当に耐えられなかった。


それを、

繰り返し使うことが。



この日は、

家に帰ってから、

雑巾のにおいの取り方を調べた。


できそうな方法を、

一つだけ見つけた。


ポットのお湯を、

直接かける。


しばらく置いて、

洗って、

干す。


それで、

解決するしかなかった。


その場は、

何事もなかったように終わった。

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