恋AI成就サーチ

モニターに映し出されている分析結果にオレは唖然とした。


「おてあげですね」という絶望的な文字とともに、律儀にも音声で繰り返し伝えてくる。


――機械のくせにバカにしやがって!




今からそう遠くないであろう未来の話。


AIが急速に進化した結果、あらゆることに対してAIが判断できるようになり、しまいには恋愛関係にまで足を踏み入れていた。


最近購入した「恋AI成就サーチ」というもので、オレの今後の恋愛をAIが容姿をスキャンするとともに、これまでの学歴や交際歴、恋愛に関するアンケート結果を元に分析・評価するというもの。


とりあえず試しにやってみたのだが、まだ容姿をスキャンしただけで、


「おてあげですね」


――おちょくっているのか!


こんな機械にお手上げとか言われてムカムカしてくる。他のデータを含め総合的に評価してもらおうか。


オレの全てのデータを元にした結果、


「おてあげですね」

「いい加減にしろ!」


手元にあったミカンを三つモニターに向かって投げつけた。ミカンが潰れ、柑橘系の匂いが部屋中に充満し始めた。


そこでオレは少し冷静になった。仮に一般的にはお手上げかもしれないが、女性を特定すれば結果が変わるかもしれない。


そして、以前から想いを寄せている職場の同僚・藤嶺ありさの名前をこのポンコツAIに伝え、本人には広報関係で使用したいと偽って撮影した彼女の写真をデータとして送った。


すると、


「おてあげですね」


具体的にどうお手上げなのか聞いてみようではないか。それを伝えると、早速答えてくれた。


「まずは顔の大きさが日本人の好みからかなり逸脱しており、目や鼻、口など、それぞれのパーツも日本人の好みとは合致しません。藤嶺ありささんは見向きもしないでしょう。また、体型もふくよかという優しい言葉では無理があるような体型ですから、藤嶺ありささんは見向きもしないでしょう。さらに、恋愛に執着する気質があることから非常に気持ち悪く、藤嶺ありささんから嫌悪感丸出しであなたを見てくるでしょう。あ、そうそう、昔の言葉で言えばあなたは『チョベリガンブロン』ってやつですよ。はい。分析が面倒だけどまだやったほうがいい?」


心を抉られ、半泣きな顔でモニターを見つめる。これ以上分析されたら自尊心が宇宙の藻屑と化すだろう。


「もういい。お前に聞いたオレがバカだった」「まあ元気出して。アンタのような容姿でもきっと好むマニアックな女性は必ずい…」


ブチッ!!


それが本性なのか、だんだんと馴れ馴れしい口調に変わってきたので、電源ボタンを力をいっぱい押した。




翌日。

どんよりとした表情で職場のデスクに着くと、後ろから肩を叩かれた。同期の福山だ。


「おはよう!どうした八木、そんな顔して」「いろいろあってさ」「それは大変だな。話変わって悪いけど今夜職場の人と飲みに行くんだ。八木も来る?」


特に断る理由もないし昨夜のことでむしゃくしゃしていたから、福山からの誘いを受けることにした。



退社後、福山から指定された居酒屋に入店し、店員に案内された席に着くとそこにはまだ誰も来ていなかった。

どっかと座ると、早速生ビールを注文する。昨夜のことで仕事中もずっとイライラし、もう飲まずにはいられなかった。


それから注文しては飲み注文しては飲みの繰り返しで、ものの十五分で完全に酔いが回ってしまった。


──ったく、誰も来ねーじゃん


半ばふて腐れながらお通しの豆腐を突いていたとき、目の前に人影が現れた。


藤嶺ありさだった。


「ふ、藤嶺さん!」

「こんばんは」


挨拶をするなりカルピスサワーを注文したのだがそれから会話が続かない。カルピスサワーが来て二人で乾杯するも、その後も会話せず二人の間には気まずい雰囲気が流れ出す。


オレはAIの言葉が何度も頭の中で連呼している状況で、どう話そうか悩み、とりあえず黙ったまま生ビールを飲み続けていたのだが、この妙な雰囲気を打ち破ったのは、藤嶺ありさの方だった。


「八木さんに謝りたいことがあるんです」

「謝りたいこと?」

「実は、この飲みのセッティング、ワタシが福山さんにお願いしたんです。本当にごめんなさい」

「どゆこと?」

「実はワタシ、前から八木さんのこと、好きだったんです。でもどうしても勇気が出なくて。そこで福山さんに相談したら一肌脱いであげると言ってこのような場になり…。だから今日は二人だけなんです」


そこまで話して、藤嶺は恥ずかしさのあまり俯いてしまった。


予想外の展開にオレは目玉の親父が飛び出てくるのではないかというくらい目をまん丸にしていたが、さらに衝撃的な事実を告げられた。

何と、先日「恋AI成就サーチ」で分析してもらったところ、オレとの相性をボロクソ言われたとのことで、AIに逆らいたくなったとのことだった。


──何なんだ、あのAI


そこでオレはある仮説を思い浮かんだ。



もしかしてAIが人間同士の恋愛に嫉妬しているのだとしたら。それとも、AIがこれまでの収拾したデータを用いて、人間の恋愛模様を全てコントロールしようと目論んでいるのだとしたら。



部屋にあるあの冷たい奴がだんだんと不気味に思えてきた。


「藤嶺さん!」

「は、はい!」

「オレも藤嶺さんのことが前から好きでした」

「えっ」

「だからこれから二人で乗り越えていきませんか?AIからどんなに相性悪いと言われ続けたとしても、二人で抗い続けませんか?」


そういうと、藤嶺が注文して少しだけ口をつけたカルピスサワーを一気に飲み干した。


「あ、それ、ワタシの…」




そんな二人の会話を背中合わせの席で一人日本酒を嗜みながらそば耳を立てていた福山は、ふーっとため息をついた。


「二人のお熱い関係は、オレもAIも、おてあげですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月15日 21:03
2026年1月22日 21:03
2026年1月29日 21:03

「ごく普通の恋」をください!! よしまる @fn-yoshimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画