教え子Aちゃん『祝い』
岩田へいきち
教え子Aちゃん『祝い』
6月の雨が降る日、君は、同級生のこの人と結婚式をする。結婚式、招待してくれてありがとう。送迎バスには、多くの同級生が乗っている。みんな知らないぼくにも明るく挨拶してくれる。さすが、Aちゃんの同級生たちだ。久々の結婚式、ぼくは、パツンパツンのスーツを着込んで、やや緊張している。
Aちゃん、君は、2人の中学生のお兄ちゃんたちのサッカーの応援に、小学生になる前から来ていたね。白いベレー帽を被って、とても可愛いかった。ぼくが脳出血で倒れて入院していた時もお兄ちゃんたちの卒業式のあと、チームのみんなと一緒にお見舞いに来てくれたね。ぼくは、あの時とても嬉しいかった。これからも生きて行けると思ったよ。
小学生になって、君は、うちの小学生チームに入ってきた。他の男子たちと混ざってサッカーを楽しんでいたようだ。 実は、教え子と言いながら、ぼくは、Aちゃんに、ほとんどサッカーを教えていない。小学生で試合の出場機会が少なかったのかぼくが監督をしている中学生チームには入って来なかった。どこのチームにもありがちだったのだが、実力があっても女子は、男子の後回しにされるのだ。ぼくならそんなことをしないのに。むしろ中学生チームに入ったら他の男子よりも活躍できたかもしれないのに。君は、陸上部に入ってしまった。しかし、ぼくが君を好きになったのは、この頃からだ。同じグラウンドで練習をする陸上部。君は必ず、ぼくに挨拶をしてくれた。その白い歯がいつも眩しかった。
お兄ちゃんたちは、とっくに中学、高校と卒業して、Aちゃんも高校生になった。君が3年生のある日、制服のまま、大きなカニのポシェットをかけて、女の子の友だちとたちと中学校の運動会に現れたね。ごめんなさい。ぼくは、最初、誰が挨拶に来たのか分からなかったんだ。ぼくは、必死にメールアドレスを聞いたね。君は
『あんまり返事出さないですけど』
と教えてくれた。就職はどうするのと尋ねたら、
『都会へは出ない』
と。
優しい君のことだからきっとこの頃、もう、お父さんの病気のことを知っていて、近くにいようと思っていたんだね。
そんなことは、ぼくは知らなかったけど、
『都会へ出ないならうちの会社に入らない?』
と君を誘ったんだ。それからは、うちの会社のアピールでメール攻撃。ハンドボール部、副キャプテンをしていた君の高校総体も行けないお父さんたちの代わりになるわけではないけど、観に行った。そして、会社からも学校へ正式オファー。会社訪問にお母さんと一緒に来てくれた。
あの17歳の小麦色に焼けた細い身体の白い歯の微笑み、今でも頭の中に焼き付いてるよ。
君は、ここの工場を気に入ってくれて、うちの会社に入ってきた。入る前に
『髪金髪にしても大丈夫ですか?』
と聞いてきたね。
可愛いから最初、ショールームとかに配属されるかもしれないと思っていたけど、むしろそんなところよりも気を使わなくて済む、工場勤務を希望していたんだね。けっこう、暑かったり寒かったりきつかったりと大変な職場なのに君は、馴染んで、もう7年も勤務してくれている。最初は、いつも早めに会社に着いてたね。でも半年ぐらいしたら、ぼくと同じギリギリ出勤俗になった。会社の近くになるといつも車が前後になって。まるで恋人同士のように、車の中から手を振りあってていたね。
ギリギリで着くと、左半身麻痺のぼくを気遣って、タイムカードを押してぼくの車のところまで、走って持って来てくれていた。とても有り難かったよ。タイムカードよりもなにより、毎朝、Aちゃんに会えることが嬉しかった。
身体障害者のグラウンドゴルフ大会でぼくだけ会社を休んでた日、雨で、グラウンドゴルフ大会が中止になった。ぼくは、
『そうだ、今日、Aちゃんに梅ヶ枝餅を届けよう』
と思いたち、太宰府まで車を走らせた。仕事が終わって家に帰ったAちゃんに温かいままの梅ヶ枝餅を届けようと必死で小雨の降る中、行ってきた。ほんぶりになった雨の中Aちゃんが家の前で傘をさして待ってた。喜んでくれた。
いつもタイムカードや色々やってくれてるから、コンビニで偶然会ったりして、アイスクリーム買ってやろうかとか言っても遠慮してなかなか
『うん』
とは言わないのである。梅ヶ枝餅なら食べてくれる、その一心だった。
ある日、君は入籍しました。と言ってきた。プロポーズされたからとっても縁起が良い日を選んで結婚したと。
あのコンビニの入り口で会ったあの彼氏と結婚するんだね、良さそうな子じゃないか。
『来年中に結婚式が出来れば良いんですが』
と言っていた。
そして、今日は、その来年の6月だ。ジユンブライドに憧れていたのか? 雨が酷くならないことを願う。
お父さんは、会社に入ってしばらくして、亡くなってしまった。チームの保護者会会長もしてくれたお父さんだ。お姉さん、お兄ちゃんたちと年の離れたAちゃんのことをものすごく可愛がっていた。お通夜のお父さんの写真がぼくに微笑みかけてきた。口元が動いてる。
今日は、Aちゃんのお祝いの日、お父さんの分も一緒に祝いますよ。
結婚式は、お父さんの役を教え子の長男のお兄ちゃんがやっていた。同級生同士の結婚式、他のサッカー部の男の子も来て祝ってる。ぼくの教え子6人がこの会場にいる。新郎、Aちゃん、兄ちんたち、教え子たち6人と一緒に写真を撮る。Aちゃん、君の素晴らしい仲間たちが祝ってくれてるよ。お父さん、ぼくは、Aちゃんと友だちになれて良かったです。これからも赤ちゃん出来ても祝っていきます。
終わり
教え子Aちゃん『祝い』 岩田へいきち @iwatahei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます