よよちゃんの日曜日

尾八原ジュージ

よよちゃんの日曜日

 そのお化けは、よよちゃんというのです。

 幼稚園のきいろい帽子をかぶって、幼稚園のみずいろの上っ張りを着て、長グツをはいているのです。

 ブランコの壊れた公園にいたり、神主さんのいない神社にいたり、草ぼうぼうの空き地にいたりします。ほんとはちゃんとしたブランコのある公園とか、幼稚園とか保育園とか、小学校とか、子どもがたくさんいて楽しそうなところへ行きたいけれど、そういうところにはなぜか入れません。外から眺めているだけです。

 さて、よよちゃんの願いごとは、お誕生日を祝ってもらうことです。

 このあたりの幼稚園では、毎月はじめにおたんじょうび会をします。その月に生まれた子どもたちのお祝いをするのです(ただし八月だけは、夏休みで幼稚園がお休みなので、七月の子たちといっしょにやります)。それを見ているうちに、自分もお誕生日を祝ってほしくなったのです。でもよよちゃんは、そこに通っている子ではないので、どの月にも入れません。窓にほっぺたをくっつけて見ているだけです。中にいる子と目があうこともありますが、みんなサッと目をそらします。

 よよちゃんがいつ、何年何月何日何時何分に生まれたか、自分でも忘れてしまったけど、どうも日曜日に生まれたような気がします。なので日曜日の零時零分になると、町中のおうちをまわります。玄関のドアを叩いて、

「お祝いしてくださーい」

 と声をかけます。

 でも、だれもお祝いしてくれません。なかにはうっかりドアを開けてしまう人もいますが、すぐに閉めてしまいます。ケーキやプレゼントどころか、「おめでとう」と言ってくれるひとすらいないのです。よよちゃんはあきらめて、草ぼうぼうの空き地やなんかに帰って、一個しかない目から涙をぽろぽろ流しながら、日曜日が終わるまでねむるのでした。


 いっぽう町のひとたちは、日曜日が来るたびに、おばけにドアを叩かれるのがいやでした。

 そこでみんなで話し合って、一年の一番さいしょの日曜日を、なんだかわからないけどよよちゃんをお祝いする日ということに決めて、その日にちゃんと祝ってしまおうと決めました。町会費でケーキを買って、「おめでとう」のプレートと、色とりどりのろうそくもつけてもらって、空き地に置くことにしました。

 よよちゃんの喜んだことといったら、ありません。あんまり嬉しいので、近所の玄関を回ってドアを叩いて、鉄や木のドアを五つくらい壊しました。ついでに窓も十枚くらい割りました。

 そんなことがあったので、その翌年の一年の最初の日曜日には、ケーキがありませんでした。よよちゃんは辺りの家をまた一軒いっけん回って「祝ってくださーい」とやりました。だれも出てきませんでした。

 よよちゃんは、去年からとっておいたろうそくに、ふーっと息をふきかけました。するとポンポン火が点いたので、火の点いたろうそくを一軒いっけんの前に置いて、だまって町を出ていきました。


 よよちゃんが長グツをガッポガッポ鳴らしながら歩いていくと、別の町がありました。前よりちょっと小さいけれど、ブランコの壊れた公園や、草ぼうぼうの空き地があって、おばけが棲むにはあんばいのよさそうな町でした。

 よよちゃんは喜びました。喜んでいたら、なんだか今日は日曜日だったような気がしてきました。それで手始めに、いちばん近くの家の庭へ入って、玄関のドアを叩きました。

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